情報教育/プログラミング/情報モラル

新学習指導要領における情報モラル指導の実際

~携帯電話についての指導と体験ツールの活用~

学校教育における情報モラルの指導、とりわけ携帯電話について、新学習指導要領にもとづき、どのような点に留意して情報モラルを指導していくべきか。中川一史(放送大学教授)をコーディネータに、「仮想携帯」を活用した実践を踏まえ、議論が交わされました。

コーディネータ: 中川 一史 放送大学教授
パネリスト: 梶本 佳照 兵庫県三木市立教育センター所長
中川 斉史 徳島県東みよし町立足代小学校教諭
佐和 伸明 千葉県松戸市立馬橋小学校教諭

(「教育ソリューションフェア 2009 in 東京」で発表された内容です)

「当事者」意識をもたせ、考えさせる指導

中川一史(放送大学教授)新しい「学習指導要領」では、「総則」において各教科等の指導の中で「情報モラルを身に付ける」ことが記されています。また、「学習指導要領解説(道徳)」では、携帯電話について指導の必要性が明示されました。情報モラル、とりわけ携帯電話については、学校教育において待ったなしの状況です。さらに、指導に際して「コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れる」といった記述があります。

先ほどの、佐和伸明先生の実践発表では、コンピュータ上の「仮想携帯」を1人ひとりに与えて、コミュニケーション(メールの送受信)、インターネットの閲覧(プロフや占いサイト)を疑似体験させられるツール「仮想携帯」を活用した授業を紹介いただきました。

この佐和伸明先生の実践発表をうけて、梶本佳照先生、コメントをお願いします。

子どもたちは、コンピュータ上で仮想的に自分の「携帯電話」を持つことで、自分自身を問題の「当事者」として捉えていたと思います。

また、情報モラルの授業では、ベースとなる知識がない状態で子どもたちに話し合わせてしまうと、授業の収拾がつかなくなることがあります。佐和伸明先生は教えるべき内容は、しっかりと指導された上で考えさせるべき内容は考えさせており、非常にわかりやすい授業展開だと思います。

佐和伸明(千葉県立松戸市立馬橋小学校教諭)私は、情報モラルの授業では、子どもたちに考えさせることが大切だと考えています。しかし、先ほど発表した授業でも「仮想携帯」に表示された架空請求に対して、「お金は払わなければならない」と主張する子どもがいました。そして、その理由は「自分で行った結果だから責任を持って払わなければならない」という正義感溢れるものでした。さらには、他の子どもたちもその理由に同調する雰囲気があったことにも、驚かされました。

このようなことから、子どもたちに話し合わせ、その結果、収拾がつかなかったり、判断がつかなかったことに対して、教員が必要なポイントで説明し、考え方の方向性を示すことが必要だと考えています。

そうですね。教員が方向性を付けすぎると「考える授業」ではなく「教える授業」になってしまうので「さじ加減」が難しいですね。

このような授業における留意点については、「仮想携帯」に付属する指導書「携帯電話の情報モラル指導実践ガイド」に記載されています。実践ガイドには事例以外に、コミュニケーションやパケット料金などをテーマにした指導案が用意されています。ぜひ、参考にしていただければと思います。

続いて、中川斉史先生、コメントをお願いします。

子どもたちは、とても一生懸命に考えていたと思います。迷惑メールの文中に書かれている、ワンクリック詐欺だと思われるリンクに接続する際も、子どもたちからとても大きな歓声があがりました。これは「仮想携帯」が自分のツールになっている証拠だと思います。「仮想携帯」のような体験型ツールがあることで、自分自身を「当事者」として考えさせられていたのではないでしょうか。

また、「占いサイト」の授業に関しては、占いを入力している学習者と、教員機のモニタリング画面のように、その断片的なデータを一つに集めて個人情報を収集している悪徳業者の、両方の立場を第三者的に捉えられます。これは、電子ツールならではの面白い点です。ツールの特性をうまく利用して、さまざまな授業ができるのでは、と思います。

さて、ここからは、その他のテーマの指導事例について、中川斉史先生、梶本佳照先生から実践の報告をいただきます。

情報モラル指導に不可欠な「情報の科学的な理解」の内容

「情報の科学的な理解」と「情報モラル」の密接な関係

中川斉史(徳島県東みよし町立足代小学校教諭)情報教育/モラルには、「マナー」や「ルール」という視点、もう一つは「スキル」「リテラシー」などの操作に関わる視点があると言われています。私は、さらに「危険予知」という視点もあると考えます。

例えば、交通安全教育では、既に「危険予知」という考え方が主流になっています。「次にどんなことが起こるのか」ということを考え予想させるのです。同じことが情報モラルに関してもいえると考えます。

では、この「危険予知」の力はどのようにすれば身につくのでしょうか。

まず、情報活用能力には3つの柱があります。

小学校では「情報の科学的な理解」をあまり扱いませんが、私は「情報の科学的な理解」と「情報モラル」が非常に密接な関係があると考えています。

携帯電話の指導例えば、「はさみ」を人に渡すとき、私たちは刃先を自分にむけて相手に渡します。これは「マナー」ですが、それは、「はさみは尖っていて危険なものである」と私たちが理解しているからだといえます。つまり「科学的な理解」があるからマナーとして納得して行えているのです。

また、新しい学習指導要領「理科」の中には「実感を伴った理解」という表現が入っています。今の子どもたちは、「怪しいメールは無視する」「チェーンメールは送ってはいけない」といったことは漠然と理解していますが、「何故してはいけないのか」を科学的に理解させることで、実感を伴った理解になると思います。

写真付きメールを送り合いパケットを体験する

そこで今回、携帯のパケットをテーマに「情報の科学的な理解」を意識した実践を行いましたので、ご紹介いたします。

下記のような流れで授業を進め、送る側も受け取る側もパケット料金を支払っていることを確認し、携帯電話で写真などを送るときに、気をつけることについてまとめました。

本時では、子どもたちに「仮想携帯」で写真を添付したメールのやりとりを体験させ、その後、そのパケット量や料金を全員で確認しました。

ただ単に、パケットを知識として理解させる授業とは異なり、パケットについてより理解が深まったのではないかと考えます。

パケットの仕組みを体感し、「情報の科学的な理解」からマナーを学ぶ

「科学的な理解」を深め「危険予知」の力を育む

例えば、「大きいメールは送らないようにしましょう」と言われた場合、「大きい」とは一体何を示しているのかを十分理解しなければ、あまり意味がありません。また、それが何故いけないのか、ということもメールを送る仕組みや回線速度などの科学的な理解がなければ、相手を思いやることもできないでしょう。

「情報の科学的な理解」は情報教育/モラルと密接に関係しています。そして、「仮想携帯」のようなツールを活用して体験的に学ぶことで、よりその理解が深まり、新たな危険を回避する「危険予知」につながると思います。

科学的理解に立ったモラル教育を

現実感と当事者意識を持たせる情報教育/モラル

受身から一歩進んだ情報教育/モラルを

一般に、情報教育/モラルは、問題事例の文章教材やアニメーション教材を使用して、頭の中でイメージさせ、子どもたちに考えさせるパターンが最も多く行われており、授業効果も高いとされています。

しかし、これだけでは子どもたちはどうしても受身で考えてしまいがちです。これは、資料の特性上しかたがない面がありますが、現実感を持ち当事者となって考えるには、携帯電話などの情報機器を実際に使って体験しながら、自分で判断をする場面に直面することが大切だと考えます。もちろん、実際の携帯電話を授業で使用することはできないので、コンピュータ等で携帯電話の疑似体験を行うソフトウェアの使用が考えられます。

受身から一歩進んだ情報教育/モラル 梶本佳照(兵庫県三木市立教育センター所長)

携帯メールでの表現の難しさを実感

三木市内の小学校と協力し、携帯電話のメールやWebサイトを疑似体験できるソフトウェア「仮想携帯」を用いて子どもたちが従来の教材より携帯電話の使い方を主体的に考えていく授業を試みました。

本時は、明日のドッチボールの練習について、友だちから送られてきた短いメール「特訓(明日の練習)はいいよ」が、「いいよ」が参加意思なのか、参加できない意思なのか、どちらにも取れる曖昧な内容であったので誤解が生じた、というシチュエーションで実施しました。

相手を意識して言葉を選び、誤解のない分かりやすいメールを送る

本時では、子どもたち1人ひとりが「仮想携帯」を持つことにより、自分自身が当事者になって受信したメールへの返事や、誤解が生じにくいメールを考えて、送信したりすることができました。

子どもたちは、短い文で送ることが多い携帯メールの良さと難しさを実感するとともに、実際にどのようなメールを送れば誤解が生じにくいのかを考えてメールを送ることによって、解決策まで含めて体験できたと思います。

授業を振り返って

仮想携帯で切実感のある情報モラル指導を

最後に、3名の先生方から携帯電話に関する情報モラル授業を行う上で、教員が留意するべき点についてお話しいただければと思います。

個に応じた情報モラル指導を

子どもたちに「仮想携帯」を自由に使わせてみたところ、パケットのむだ使いのようなメールや脅迫まがいのメールなどを送り合っていることがわかりました。子どもたちには、未だ文字によるコミュニケーションに十分に対処できない状態にあるといえます。わずかな間に、パケット料金を1万円以上使っている子どももいました。

このように、指導が必要な場面は自然発生します。しかし、このような状況の発生を待ち続けるわけにもいきません。

「仮想携帯」の良さはコンピュータ教室の安全なネットワークの中で「失敗体験」ができることです。そして、失敗したことをみんなで考える場を設けることで、自分の問題として捉えさせられます。

仮想携帯の良さ(教師)この「失敗体験」をどのように生かしていくのかが、教員の役割です。これを繰り返していくことで、「情報モラル感覚」が育成されると考えます。

また、これまでの情報モラル指導は一斉指導のスタイルが中心でしたが、この「仮想携帯」では教員機から、子どもたちの操作履歴を確認できます。これからの情報モラル指導は、子どもたちの1人ひとりを見取り、個別指導につなげていくことが求められるでしょう。

根底にあるものを理解し、応用して考える力を

最初は仕方がないにしても、いつまでも「~してはいけない」というだけの情報教育/モラルで終わっていてはだめだと思います。「どのように対応すれば良いのか」を伝えて行かなければなりません。

情報モラルのポイント新しい技術がものすごいスピードで出てきます。しかし、どのような技術であれ、「個人情報を安易に出してはいけない」ということが根底にあります。

子どもたちには、よく似た事例を、応用して考えられる力を育てることが必要でしょう。また、そのためには「情報の科学的な理解」が必要です。

「仮想携帯」のようなツールでコンピュータ教室を有効に活用し、子どもに切実感を持たせた指導を行ってほしいと思います。

子どもたちに「想像力」を持たせる指導を

Web上には、「無料」とうたわれているものがたくさんあります。しかし、なぜそれらは「無料」なのでしょうか。情報モラル指導を行う上で、子どもたちに「想像力」を持たせるように指導することが重要だと考えます。そして最後には、携帯電話があって良かったという、希望の部分も伝えて指導していきたいと思います。

まとめにかえて先生方のお話には3つのポイントがありました。

1つ目は、「自分はいやだな」「相手はだいじょうぶかな」という気持ち、つまりモラルの感覚を体験的に磨いていくこと。2つ目は、「こういうことに気をつけましょう」といった指導でだけでなく、自分が加害者にも成り得ることも含めて理解させること。3つ目は、「起こったこと」「してしまったこと」を、教員が見取り、タイミング良く考える場を設けることです。

どなたも共通して、この3点を語っておられました。どのタイミングで、どのように教員が出て指導するのか、授業づくりを改めて考えていただき、ぜひ、「仮想携帯」のようなツールを活用して、切実感のある情報モラル指導を行ってほしいと思います。

(2009年10月掲載)