情報教育/モラル

学校に求められる「ケータイ」指導のあり方(中川一史、梶本佳照、佐和伸明、林向達)

子どものケータイ利用のあり方が社会的な関心を集めている。このほど公表された小学校学習指導要領解説(道徳)では、ケータイに関しても「児童は、学年があがるにつれて、次第にそれらを日常的に用いる環境の中に入っており、学校や児童の実態に応じた対応が学校教育の中で求められる」と指導の必要性が明示された。ケータイも含めた情報教育/モラルの充実を望む声が高まるなか、学校現場はこの問題をどう捉えるべきなのか、識者に議論してもらった。

(協力:日本教育新聞社)

新学習指導要領解説
携帯電話についての対応も言及(小学校学習指導要領解説(道徳)より)
情報モラルの問題に留意した指導

社会の情報化が進展し、コンピュータや携帯電話等が普及することにより、情報の収集や表現、発信などが容易にできるようになったが、その一方で、情報化の影の部分が深刻な社会問題になっている。児童は、学年があがるにつれて、次第にそれらを日常的に用いる環境の中に入っており、学校や児童の実態に応じた対応が学校教育の中で求められる。

これらは、学校の教育活動全体で取り組むべきものであるが、道徳の時間においても同様に、情報モラルに関する指導に配慮していかなくてはならない。

…指導に際しては、情報モラルにかかわる題材を生かして話合いを深めたり、コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れたり、児童の生活体験の中の情報モラルにかかわる体験を想起させたりする工夫などが考えられる。創意ある多様な工夫が生み出されることが期待される。

具体的には、例えば,相手の顔が見えないメールと顔を合わせての会話との違いを理解し、メールなどが相手に与える影響について考えるなど、インターネット等に起因する心のすれ違いなどを題材とした指導が考えられる。…

(中学校学習指導要領解説でも、ほぼ同様の記載がある)

学校・家庭が実態把握して

子どものケータイ所有率の上昇に伴い、メールのやりとりに端を発するトラブルや、ケータイサイトを利用したいじめといった問題が、小学校にも広がりつつあります。 子どもとケータイの関係、学校での指導の現状について、先生方はどう見られていますか。

学校が特に関心を持っているのはいじめ問題です。ネット上に悪口を書かれた場合の確認と削除の方法や、自分の学校の「裏サイト」の有無を確かめたいといった問い合わせが教育センターにも寄せられますね。

ケータイを使っている子どものほとんどがメールを使っています。子どもからもメール関係の相談が多いです。また最近では音楽やゲームをダウンロードする子どもが増えているようです。

現代の大人にとってケータイは、「携帯できるコミュニケーションツール」である以上に、メールやゲーム、音楽などを楽しむ「日常のなかの暇つぶしメディア」になっています。こうした大人たちの利用法の変化が、子どもにも影響しているのかもしれませんね。

ケータイが子どもにも日常的なツールになると、使いすぎや依存症などがさらに深刻な問題になりそうです。

はっきりとした傾向はまだ見えていませんが、今後表面化してくる心配はありますね。ケータイのようなパーソナルメディアは、子どもの利用実態そのものが見えにくい側面があります。子どもの現状に即した指導内容を検討するうえで、この「見えにくさ」は大きな障害ですね。

そもそも、ケータイを買い与え料金も負担しているはずの保護者自身が、子どもの実態やケータイをめぐる問題を理解していないケースが多いのではないでしょうか。そのために、家庭での指導や教育が不十分になっていると考えます。ケータイ購入時に、販売店で親子一緒に研修を受ける仕組みなどを、真剣に検討すべき段階にきているように思います。
学校としても、家庭への働きかけを充実させていく必要があるでしょう。

三木市では学校とPTAが協力して保護者向けの研修会を開く支援をしています。その場で私が、「プロフ」や学校裏サイトなどの現状を保護者に説明することもあります。

学校としてもできることはあると思いますよ。私はよく、授業参観の際に情報モラルの指導をしています。保護者にも情報モラルの重要性や家庭での教育の必要性を考えてもらえますし、ケータイやネットに関する基本的な知識や情報を伝えることもできますから。

いまの子ども向けケータイは、メールやネット接続といった大半の機能を、本体の設定でオフにできます。こうした基本的な知識を理解したうえで、親子で一緒に使い方を考えていくような関わりが保護者には求められますね。

携帯電話の所持率

トラブル予防だけでなくケータイ利用の「感覚」を養う

考え話し合う場面をつくる

学校現場の先生方の意識はどうでしょう。

「ケータイについて何か教えなければ」という意識を持っている先生は多いですよ。ただ、自分自身に知識がないから子どもに指導できないという不安もあると思います。
三木市では教員研修で、子どものケータイやネット利用の問題点や現実に起きていることを具体的に伝える一方で、市内の学校に導入している情報モラル教材を使った授業づくりも学んでもらっています。必要な知識を身に付けつつ、授業イメージを深めていくという両面からの支援が重要だと考えています。

子どもにネットやデジタルメディアを介してコミュニケーションさせると、ちょっとした言葉の行き違いや、いたずら書きといった些細なトラブルは必ず起きますね。だからこそ指導が必要になります。
トラブルを起こさないための予防的な取り組みも大事ですが、それ以上に、トラブルが起きたときに、それを題材にして子どもに考えさせることが重要です。

今回の改訂で学習指導要領に情報モラルという言葉が入りました。このほど公表された小学校の「解説」では、「道徳・情報モラルの問題に留意した指導」において、「児童は、学年があがるにつれて、次第にそれら(コンピュータ・携帯電話)を日常的に用いる環境の中に入っており、学校や児童の実態に応じた対応が学校教育の中で求められる」とケータイに関しても具体的に明示されました。
現状、どのような指導をしているのか、お聞きしたいのですが。

子どもがケータイを持ちはじめる時期を考えると、指導のタイミングとしては小学校が適していると思います。ただ、「気をつけよう」「○○してはいけない」だけの指導では限界がありますから、子どもに自分の問題と捉えさせ、考えさせる指導が必要だと思います。
私の実践例としては、ディベートの議題としてケータイを取り上げたり、「中学生向けのケータイをプロデュースする」というテーマでパネルディスカッションさせ、自分たちとケータイの関わりを考えさせる活動などがあります。

授業をする際の素材や情報源、指導上のポイントなどはありますか。

既存の教材コンテンツを利用することもありますが、「子どもに見せた、やらせた」で終わらないように注意する必要があります。子どもなりに考えたり話し合ったりする活動を設定することですね。

「失敗経験」が力にケータイ利用の疑似体験も有効

メール交換をリアルに体験

情報モラルの授業づくりにおいては、その「考えさせる」活動をどこで設定し、何を考えさせるのかがひとつのポイントになりそうですね。

例えば、いろいろなメールの具体例を見せ、自分ならどんな態度や対応をするか、各自で考えたうえでクラスやグループで話し合ってみるといった活動が考えられますね。
こうした指導は、メールという特定の機能に関するモラルを培うだけでなく、コミュニケーション全般に関わる感覚を養うことにつながります。

確かにトラブル原因の大半はコミュニケーションですからね。人とうまくやりとりするための感覚を磨くことは、ケータイの指導を含めた情報教育/モラルにおいて重要な要素だと思います。

ただ指導上の課題として、学校にケータイ自体がないという現状がありますよね。学校に持ち込んで、目の前の自分のケータイについて考えさせるような環境ができれば、子どもも「これは自分の問題だ」と捉えやすいのでしょうが、現実的には難しいでしょう。

小学校学習指導要領解説においても、情報モラルの指導に際して、「コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れる」といった記述があります。
例えばICT活用教育支援ソフトの「SKYMENU Pro」には、コンピュータ上の「仮想携帯」を一人ひとりに与えて、コミュニケーションを体験させられる機能がついていますね。
子ども同士が「仮想携帯」を使ってメール交換もできますし、先生から子どもに、学習の題材となるサンプルメールを一斉送信することもできます。また子ども同士のやりとりはログに記録されていて、だれがいつ、どんなメールを送ったかがわかるようになっています。

ネット世界の仕組みを知る

こんなメールにはどう対応すべきか考えるだけでなく、返信したり、ときには無視して削除したり、具体的な行動まで体験させられますね。
また、クラス内や学校内という閉じた場でコミュニケーションが完結するので、子どもに失敗経験をさせられます。互いの失敗から学び合うことは多いですから、「安心して失敗させられる環境」というのは、情報モラルの指導において大きなメリットです。

学校内であれば、子ども同士のメールのやりとりで仮にトラブルが起きても問題解決はできますからね。これは授業だけでなく教員研修でも使えそうな機能です。

ログが見られることにも価値があります。扱いは慎重を期すべきですが、互いのやりとりを振り返って、このときこういうメールを送ったことがトラブルのきっかけになったといったことを客観的な視点で確認することができますね。
こうしたログの記録は、本物のケータイメールやネット上の掲示板などでも行われていて、不正な書き込みをした人物を特定する情報として使われることもあります。
一見すると匿名性の高そうなネットの世界も、実はこうした管理が行われているという、仕組みを理解したうえで適切に活用していく態度を養う。これは情報教育の「情報の科学的理解」という視点からも重要なことだと思います。

佐和先生や梶本先生が言われる「コミュニケーションの感覚」を育てることは、情報教育/モラルのひとつのポイントでしょう。「このメールを相手に送るのはちょっといやだな」「これなら大丈夫かな」と少し手を止めて、メディアの先にいる相手のことを考えられるセンスですね。
こうした感覚は、メディアを活用したコミュニケーションを繰り返し体験するなかで培われていくものですから、「仮想携帯」のように学校のなかでその機会を提供できることは、指導の充実につながる大きな要素だと思います。
今回は、ケータイの情報教育/モラルの必要性や指導上の課題について有益な意見交換ができました。どうもありがとうございました。

(2008年9月掲載)