情報教育/モラル

教科「情報」実践報告

PBLにおける学習者ログの有機的な利活用を目指したプログラミング実行環境「ますめ」

藤岡 健史(京都市立西京高等学校 教諭)

藤岡健史

【要旨】

筆者はプログラミング教育とPBLを融合した高等学校情報科のモデルカリキュラム ISEC-SETを開発し、2003年から実践を続けてきた。これまでの経年評価をもとに本研究ではブラウザベースのプログラミング実行環境「ますめ」を開発し、来年度から新たな実践を開始する。「ますめ」はスプレッドシートのセルに簡単にプログラムを書ける初学者向けのプログラミング環境であり、学習者のプログラミング操作を高粒度で記録して有機的に利活用できることが最大の特長である。本稿では、現在の開発状況を述べる。

【1】はじめに

筆者はプログラミング教育とPBL(問題解決学習)を融合した高等学校情報科のモデルカリキュラムISEC-SET(Information Science Education Curriculum based on PBL with Squeak Etoys)を開発し、2003年から実践を続けてきた(1)。ISEC-SETは1年間のカリキュラムであり、前期にはオリジナル教材を用いてプログラミングの基礎を習得し、後期には生徒自身が課題(研究テーマ)を設定してその解決に取り組むPBLを行う。その研究過程及び成果をレポートやポスター等にまとめ、発表・討論を行うのが最終目標である。

本研究では、これまでの実践研究の経年評価をもとに新しいプログラミング実行環境「ますめ」を開発した。本稿では、現在の開発状況を述べる。

【2】カリキュラムISEC-SETの概要

図1 ISEC-SETの流れと図2 ISEC-SET後期のPBLの様子ISEC-SETの1年間の流れを図1に示す。

前期には、はじめにビジュアルベースのプログラミング環境Squeak Etoysを用いてプログラミングの基本概念を学び、その後テキストベースのExcel VBAへとレベルアップしていく。授業ではオリジナル教材(2)を用い、プログラミング経験のない生徒でもモデル化とシミュレーションの体験をしながら基礎を習得できる内容となっている。

後期には、生徒自身が課題(研究テーマ)を設定し、自らプログラミングを行って主体的にPBLを進めていく。教員はあくまでサポート役であり、必要に応じて面談やディスカッションを通して生徒の主体的な活動を支援する(図2)。

生徒が設定する課題(研究テーマ)は前期に学んだ内容(モデル化とシミュレーション)をもとにしたものとしている。生徒の設定した課題例を以下に挙げる(3)

  • 体型変化シミュレーション(2004)
  • 京都の渋滞シミュレーション(2005)
  • H高校における避難シミュレーション(2006)
  • 講堂舞台の照明シミュレータ(2009)
  • 棒引きの優れた戦略を探る(2010)

【3】教育用プログラミング実行環境「ますめ」

本研究では、生徒のPC上での学習活動を高粒度に記録・分析することにより学びのプロセスを本質的に明らかにし、より効果的な学習支援を行う。この目的を達成するため、教育用プログラミング実行環境「ますめ」を新たに開発した。

3.1 「ますめ」の概要

「ますめ」は、Squeak Etoysのようなビジュアルベースの環境とExcel VBAのようなテキストベースの環境を合わせ持つ初心者向けのプログラミング環境で、神戸大学情報基盤センターの荻野哲男氏との共同研究により開発されている(4)。JavaScriptで記述され、ブラウザ上で動作する。「ますめ」は次の各エリアから構成される(図3)。

図3 「ますめ」の実行画面
  • キャンバスエリア : プログラム中で生成されたグラフィックオブジェクトを表示するエリアである。Squeak Etoysのように、すべてのグラフィックオブジェクトは表示座標等の属性値を持ち、その値をプログラムから変更することでキャンバスエリア内の指定された位置に表示させることができる。
  • シートエリア : Excelと同様にセルが格子状に配置され、全てのセルには値や数式に加えVBAのようにプログラムも記述できる。セルを選択するとそのセルのプログラムがインスペクタエリアに表示される。

3.2 チュートリアル教材の開発

これまでのISEC-SETの成果をもとに、「ますめ」用のチュートリアル教材を開発している。特にモデル化とシミュレーションを体験的に学ぶことのできる教材を重点的に開発中である(図4)。

図4 「ますめ」における風邪観戦シミュレーション

3.3 学習者のプログラミング操作の記録

3.3.1 ”Store-Everything Select-Later”の原則

「ますめ」では、上林弥彦氏の提唱する“Store-Everything Select-Later”の原則(5)を採用し、学習者のプログラミング操作をすべて記録する。

3.3.2 タイムマシン機能

「ますめ」では、記録した学習者ログを有機的に利活用することでPBLでの生徒の主体的な学習を支援することを考える。その一つとして「タイムマシン機能」を実装している。これは、学習者ログを任意の時点から再生でき、また任意の時点からプログラミングをやり直せる機能である。この機能により、学習者自身は過去に自らが行ったプログラミングのプロセスをいつでも見直すことができ、やり直したいところから容易にプログラミングし直すことも可能である。一方、教員は学習者ログの再生・分析により学習者のつまずきを的確に発見できるとともに、さらに効果的な教授法を検討できるようになると期待される。

【4】まとめ

本稿では、PBLにおける学習者ログの有機的な利活用を目指して新たに開発した教育用プログラミング実行環境「ますめ」について述べた。来年度から本格的に授業実践を開始し、長期的・継続的に評価していく。

参考文献

  1. (1)藤岡健史、高田秀志、岩井原瑞穂:高等学校におけるSqueakを用いた課題解決型情報教育の実践と評価、日本教育工学会論文誌、28巻Suppl., 2005, pp.140-144, 2005.
  2. (2)藤岡健史: 高校情報科学教育におけるSqueak eToyを用いたPBL教科書と指導書の作成, 日本科学教育学会年会論文集31, pp.135-136, 2007.
  3. (3)藤岡健史: Squeak eToyを用いたPBLカリキュラムの経年評価-4年間の授業実践の分析から-、日本情報科教育学会誌(第2号), 2009.
  4. (4)「ますめ」HP:
    http://pomelo.istc.kobe-u.ac.jp/masume.html
  5. (5)Retrax System:
    http://www.ritsumei.ac.jp/~yyokota/research/retrax/ (2012.8.29参照)

※第5回全国高等学校情報教育研究会全国大会(千葉大会)要項から転載
(2012年11月掲載)