情報教育/モラル

教科「情報」実践報告

「技術・社会・人」の関係性を
意識した「情報社会の課題」の授業

近未来から“いま”の情報社会を見る

大貫 和則(茗溪学園中学校高等学校 教諭)

大貫和則教諭

【要旨】

「社会と情報」では情報社会における課題を通し、積極的に情報社会の構築に参画する姿勢作りが求められている。本稿では情報社会における課題を扱う授業を紹介する。その特徴は情報社会における諸課題を「技術・社会・人」の三者関係で捉えることである。いっぽう、この領域は生徒の関心を引き起こすことが重要である。そこで、近未来社会から“いま”を考えるという視点を取り入れる工夫をした。

【1】はじめに

表1文部科学省(2010)による新学習指導要領解説によると、「社会と情報」では「情報社会に積極的に参画する態度」を「情報社会に参加し、よりよい情報社会にするための活動に積極的に加わろうとする意欲的な態度」と定義している。これらの学習目標を達成するための科目内容として「(3)情報社会の課題と情報モラル」、「(4)望ましい情報社会の構築」などが含まれている(表1)。

指導要領解説を読み解くと「(3)ア 情報化が社会に及ぼす影響と課題」は「情報化の進展→社会や人々の生活に影響を及ぼす」ことを理解して「人々が情報化の影の影響を少なくするために必要な手立てを考える」ことを目指している。

図1情報技術は社会や人に影響を与えると同時に、人は新たな情報技術や社会制度を作り出す、社会も法律や施策などを通して人々を動かし技術開発を促す。このように「技術・社会・人」は互いに影響を及ぼしあって発展していると考えられる(図1)。したがって、高校生が情報社会の発展に寄与するためには、「技術」「社会」「人」を個別に独立したものとして学ばせるのではなく、これら三つの関係性を理解させることが重要だと考えられる。

本稿では、技術・社会・人がそれぞれ影響しあうという関係性を意識した授業の展開例を紹介する。

 

【2】「情報社会の課題」の授業

表2本校の情報科は高校1年と3年で1単位ずつ設置されている。高校1年は情報活用の実践力を育成することを中心にこれまで授業を実践してきた。高校3年生を対象とした授業は表計算ソフトの応用、図解を用いた思考法、情報科学・技術の基礎、情報社会の課題などの内容を扱う。情報社会の課題は3時間で実施している(表2)。本稿ではこの3時間のうち1~2時間目の授業について述べる。

情報社会の課題は情報化の影の部分で扱われることが多く、授業は「光」の部分だけを扱う時間と「影」の部分だけを扱う時間に分離してしまう懸念がある。同じ情報技術が社会事情などにより人々にとってメリットにもなり、デメリットにもなるということを考慮すれば、光と影の双方を同時に扱う授業展開がより望ましいと考え、本校では「情報社会の課題」の授業を設計している。

2.1 「情報社会の課題」授業の導入(1時間目)

「情報社会の課題」の授業を導入するにあたり、生徒の関心を高めることが大切だと考えた。そこで、近未来社会のイメージビデオの視聴を通して未来の自分たちの生活から“いま”を俯瞰できるようにしてから具体的な授業内容に入る。ビデオはスピルバーグ監督の映画「マイノリティ・リポート」と総務省が作成したu-Japanの利用イメージを使用した。マイノリティ・リポートは2002年に公開された映画で、社会に張り巡らされたネットワークにより安全な市民生活を実現した社会が描かれている。安全な生活と引き換えに、今どこにいるのかが把握されている。この映画の2分ほどのシーンを見るだけでも、街中にある虹彩認証システムで個人と居場所を特定する技術、個人に語りかけてくる街頭広告、電子ペーパーに速報が流れる新聞などユビキタスネット社会で実現しそうな生活環境を垣間見ることができる。

2.2 ユビキタスネット社会を実現するための技術(1時間目)

ユビキタスネットワークを実現するために必要と考えられる基本的な技術やインフラについて解説する。

2.2.1 ネットワーク

“どこにいても”ネットワークにつながることがユビキタスネットに必要なインフラである。ネットワークについては授業では取り扱い済みであり、簡単に紹介するだけにとどめている。

2.2.2 個人認証

個人を識別する技術は欠かせない。これらの技術を次の三つの特性を利用したものとして分類して紹介している。

三つの種類の分類

  1. i. Something you know
  2. ii. Something you have
  3. iii. Something you are生体認証

2.2.3 位置検出

GPSは高校生にも馴染みのある技術である。また、Suica定期券など個人に紐づけられたIDカードも使用した場所がわかる。さらに、最近はFacebookなどのSNSで“チェックイン”して、自らが望んで位置情報を発信することも多い。

2.2.4 エージェント技術

エージェント技術とはコンピュータシステムが人に変わって処理したり、手続きをしたりしてくれる技術のことである。u-Japanのイメージビデオにはエージェントシステムに対して「(ロールキャベツを作るために)足りないものを注文しておいて」という語りかけだけで、システムが冷蔵庫内にある食材とレシピを照合し商店に材料を注文するという場面がある。エージェント技術には人が語る言葉を理解する自然言語処理技術や意味論という学問の発展が欠かせない。

2.3 情報社会とプライバシー(2時間目)

個人情報がネットワーク上に蓄積されることについて考える授業である。個人情報を提供することは、消費者が企業からパーソナライズされたサービスを享受することができ便利になるという側面、流出したときのリスクや監視に使われた場合の怖さなど負の側面の両方をかかえている。このような状況を理解した上で、各自が判断をしながら様々なサービスを利用する必要がある。

図2授業では、オンラインショップにおけるリコメンデーションや行動ターゲティング広告、ポイントカードの規約を読み解くなど身近な事例から入り、ロンドンの防犯カメラや顔認証システムの話題などを扱う。この話題を技術・社会・人の関係は捉えると図2のようになる。

授業時間の関係で生徒同士の議論をする時間をとることができない。そのため定期考査で、ネット時代の個人情報の取り扱いについて小論文形式でまとめさせている。

【3】まとめと課題

本稿で紹介した授業は学年末アンケート結果において「社会生活を送る上でとても役立つ授業内容であった」という回答が多くみられるなど、高い評価を得ている。

現実の社会は様々な事情が絡み合って成り立っている。望ましい情報化社会を構築するための力は、単純化され固定化された概念や知識では身につかない。このようなオープンエンドの問題に対し、指導要領が示す生徒同士の話し合い活動などを短時間であっても授業に組み込むための工夫をすることが今後の課題である。

参考文献

  1. (1)文部科学省(2010)、高等学校学習指導要領解説情報編、開隆館出版販売

引用・参考サイト

  1. (2)u-Japan 政策
    http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ict/u-japan/(2012.7.15 取得)

※第5回全国高等学校情報教育研究会全国大会(千葉大会)要項から転載
(2013年8月掲載)