ICT活用教育のヒント

「教育の情報化とIT活用教育」コラム 原克彦

新しいコミュニケーション手段と教育

携帯電話では、小さなボタンを「押す」ことで文字入力を行うことが標準的な方法として用いられ、その操作の繰り返しで文章を作成し、電子メールや掲示板でコミュニケーションを行っています。このボタンを押して文字を入力するという方法は、どこで身につけたのでしょう。学校教育では、鉛筆などの筆記用具を使って文章を作ることを学ぶようになっています。携帯電話を利用している多くの人も学校では筆記用具を利用して文章を「書く」練習をしてきたはずですが、携帯電話では「押す」ことが文章作成の主流になっています。これまでの日本の文化を継承する意味でも、正しい筆順で美しい文字を書き、その集合で考えや思いを伝えるという方法を学校教育で学んできているのですが、生活ではほとんど使われていないというのが現状です。せっかく学校で習得した方法を使わずに、文章を作成し、コミュニケーションなどを行っているのです。

コミュニケーションの手段として最も利用されている携帯電話では、音声による会話、文字による電子メールや掲示板などを多くの人が利用しています。さらに今後は、写真や映像(テレビ電話など)を利用して文字や音声以外の方法でコミュニケーションを行う方法が普及していくことが予想されます。先ほども書いたように、電子メールや電子掲示板では、文字を書くことで文章表現しており、この力は学校教育で練習して身につけてきました。にもかかわらず、その方法で表現された文章を使ってコミュニケーションを行う場合、その内容が相手にうまく伝わっていない場合や、伝える側の表現が適切でないことが原因で互いの意思疎通に障害や誤解が生じ、さまざまな事件や事故がおきています。同じく、学校でさまざまな場面をとおして磨いているはずの会話力を中心とする電話でも、「おれオレ詐欺」などのような新手の犯罪が発生し、話の内容を見抜けないということが起きています。これらのことを考えると、相手の話を正しく聞き取ることや、文章を読み取る練習を学校教育で十分に行っていないのではないかという疑問が生まれます。

今後、写真や映像などを利用したコミュニケーションがますます多くなっていくことを考えると、「書く」ことや「話す」こと以上に学校では教育していない分野の手法を用いることになります。そして、そこで行われるコミュニケーションが正しく行われるかは大きな不安が残ります。写真や映像をどのように見せるか、また相手から送られてきた写真や映像をどのように解釈するかなどの訓練が必要かもしれません。

同期型の電話やチャットなどのコミュニケーションはその場での修正が可能ですが、掲示板などのような非同期型のコミュニケーションではさまざまな誤解が生じることは容易に想像できます。文字や会話による現在のコミュニケーションですらさまざまな問題が発生しています。これから普及すると予想される新しいコミュニケーション方法に対しての学びや訓練をどのように進めればいいのでしょうか。生活の中で自然と身につくものとして放置していてもいいのでしょうか。

(2005年3月掲載)

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