ICT活用教育のヒント

全員が同じパフォーマンスで利用できる安定性が最重要

タブレット端末を利用したICT活用において、ネットワーク環境は無線LANが主流となっています。しかし、突然通信速度が低下したため教材が見られなくなり、授業が中断してしまうという、教育委員会としても決して看過できないトラブルが発生しているという事例も――。こうした事態にならないために、学校現場における無線LAN環境の整備の際に注意すべき点を、業界最大手メーカーであるシスコシステムズ合同会社のご担当者様に伺いました。

学校では、ネットワーク環境の検討が後回しになることも少なくありません。

海外と国内では、無線LANなどICT環境の整備に違いはありますか?

アメリカでは大学はもちろん小・中学校でもICTへの投資額が日本に比べて非常に大きく教育現場でもIT専門家を職員として採用していると聞きます。また、韓国やタイ、シンガポールなどのアジア諸国も、国策としてICT活用教育に注力しており、学校のネットワーク環境を重要な教育インフラとして認識し、ネットワークを含めたICT環境整備全体のグランドデザインを国が考えています。

日本国内を見ると、大学では先行して整備が進んでいますが、専門知識を持つ方がおられる大学と、おられない大学では差があります。学部ごとに整備状況が異なる場合もあり、ある学部ではトラブルが絶えないが、別の学部では導入から目立ったトラブルが起きていないという例もあり、状況はまちまちです。

現在、タブレット端末などのICT環境整備が進む小・中・高等学校では、整備計画を自治体のご担当者様や教職員の方々が担われているケースが多く、タブレット端末はどのように活用できるのか、どんな端末が合っているのかという面での検討が先行し、ネットワーク環境については後回しになってしまうことも少なくありません。

授業で困らない無線LANの選び方当社としては、インフラとしての無線LANの重要性をご理解いただけるよう尽力しているというのが現在の状況です。これまでも、ご担当者様やICT支援員の方向けにカリキュラム化した基礎勉強会を実施しており、より多くの方にご理解いただけるように働きかけています。その一環として『授業で困らない無線LANの選び方』という冊子も作成いたしましたので、こちらも活用していきたいと考えています。

端末を共有して利用する場合は、特に安定したネットワーク環境が欠かせません。

タブレット端末を活用するうえで、無線LANはそれほど重要なのでしょうか?

現在、学校では端末を共有して利用することが多いので、端末内にはデータを残さず、サーバに個人個人のデータを保存しておき、どの端末からでも自分のデータが取り出せる環境が求められます。この仕組みがあれば、故障などで端末が使えない場合でも、代替機を使えばすぐに授業が進められるという利点があります。しかし、これは安定したネットワーク環境があることが前提となります。また、タブレット端末は基本的に無線LANを使用することになっているうえ、教室内の配線が不要となることからも今後はますます無線LANの重要度が増していくと考えています。どんなに優れたソフトウェアや機器があっても、足場となるインフラがしっかりしていなければ、思うように使えないからです。

しかし、「なぜ、そこに予算を割かなければならないのか」という点が曖昧だと、単純な価格比較で導入が決められるというケースもあります。「企業に比べると、難しいことはしないので」というお声も伺います。しかし、授業開始時に、多くの端末が一斉に通信を開始する、先生の合図で一斉にWebにアクセスして調べ学習を行う、といった使い方は、企業における利用と比較しても、無線LANにとってはかなり負荷が高い使い方です。

また、環境にもよりますが、無線LANは一定の台数を超えると、途端に通信が遅くなる場合があります。接続は維持しているが、データが流れないという状態で、これは、傾向的に見て10台くらいから差が現れてきます。今はまだ、先生だけがタブレット端末を使われていたり、5~6台のタブレット端末を使ってグループ学習をしたりという活用が多いかもしれませんが、今後の活用の広がりを考えて、導入当初からこうした点を考慮して機器を選定いただければと思います。

電波干渉また、無線LANは電波の一つですので、さまざまな干渉によって影響を受けるため、単純にアクセスポイントを増やしたり、出力を上げたりすれば改善されるとは限りません。無線LAN同士が干渉を起こすとかえって通信が遅くなることあります。そのほか、校内のコードレスフォンや電子レンジなどさまざまな機器や校外の環境からも影響も受けるため、電波環境は常に変動しています。

そういった意味で、学校現場における無線LANにおいては、ハイパフォーマンスを実現すること以上に、一定レベルで全員が同じパフォーマンスで利用できる安定性が最重要だと考えています。

先生方や子どもたちが意識しなくても、安定的に使える仕組みが必要です。

無線LAN環境を整備する際には、何をポイントに考えれば良いでしょうか?

電波品質の可視化と指標化(CleanAir&AirQuality)の画面まずは「可視化」です。電波は目に見えませんので、どんな干渉源があるかわかりません。ですので、どんな干渉が起きているのかを確認できる手立てがあることが重要です。また、万が一トラブルが起きた場合に、原因を探るためのログ(記録)がきちんと残せることです。

簡単に言えば、お医者様が患者を診察するときに、さまざまな検査を行って原因を特定し、正しく対処されるのと同じです。無線LANもトラブルが起きれば、その場所の、その時間の環境が、どんな状態だったのかがわかれば、再発防止策を具体的に検討することができます。中には「ログは見ないから」とおっしゃる方もおられますが、ログがなければ専門家やベンダーに依頼しても問題解決はおろか原因の特定すらできません。

次に、「自動調整」の仕組みです。干渉のたびに障害が起きては使いものになりません。干渉源がある場合には、自動的にチャンネルを変えるなどの調整を行う仕組みが必要です。実は、安価な家庭用の無線LANアクセスポイントにもこうした機能は搭載されています。しかし、多くの場合は、電源のON / OFFの際に環境をチェックして調整するという処理です。電源を入れた時点では問題がなくても、何かのきっかけに影響を受けることはよくあります。周囲の環境を常時監視し、干渉があった場合にはどういった干渉なのかを解析して、内部でシミュレーションを行った上で、適切なチャンネルに変更するという処理が必要になります。

授業中に、何度もアクセスポイントを再起動するわけにはいきませんので、先生方や子どもたちが意識しなくても、状況にあわせて自動的に調整される機能は必須です。しかし、単純に機能表を比較しただけでは、安価なアクセスポイントでも単純な調整機能を有しているだけで「機能を有している」という扱いになるため、この「自動調整」については、単に調整ができるということではなく、常時電波環境を監視しリアルタイムに自動調整できる機能が重要だと思います。

サポート体制など、対応力に信頼が置ける製品を選んでいただくことが大切です。

弊社の強みを、ひと言でいえばシェアの違いです。シェアの違いは経験値の違いとも言えます。弊社には、世界中のさまざまな環境で揉まれ、培ってきたノウハウがあります。非常にレアケースな使い方が原因となったトラブルでも、設定を変更することで回避できた、といった事例を無数に持っていることが大きな強みだと自負しています。

これらのノウハウを、先ほどお話しした「可視化」や「自動調整」といった機能に反映しています。実際の経験から必要だと考えた機能を搭載しているため、価格的には割高のように思われがちですが、メンテナンスやトラブル対応の運用コストを考慮いただければ、十分にご納得いただけると考えています。

冒頭でも申しましたが、教育委員会にICTのスペシャリストを配置されるところは非常に少ないのが実情です。一部の自治体様では、情報政策課の方が兼務されてフォローされているケースもありますが、今はまだひと握りです。いざというときにプロに丸投げできる仕組みとして、「可視化」と「自動調整」が重要なポイントになると考えていただければ、価格に見合った価値を見い出していただけるのではないでしょうか。

運用については、実際に経験しないとわからないことが多いですね。

公立の学校の場合だと、一度導入すると原則5年間は使い続けることになります。実は早期に無線LANにトライされ、「以前導入して痛い目に遭ったので、無線LANは使わない」とブレーキを踏んでしまう方もおられます。しかし、それがきちんと対応できる製品で、十分なサポート体制だったなら、違った結果になっていたのではないかと思います。

弊社は、お客様と短いお付き合いでビジネスをしたいとは思いません。たまたま成功した事例を引き合いに「できます」と言い切るのではなく、リスクもお伝えしながら、個々の環境に合わせて安定的に運用いただける無線LAN環境の構築をお手伝いさせていただきたいと考えています。

無線LANは導入時に使えたからといって、将来にわたって変わらずに使えるとは限らないからこそ、製品そのものの機能はもちろん、メーカーのサポート体制からも対応力に信頼が置けるものを選んでいただくことが大切なのではないでしょうか。

(2014年6月掲載)