学習指導要領/教育の情報化

教科学習とタブレット端末の活用 算数科における学び 佐藤 幸江 金沢星稜大学教授

1はじめに

2017(平成29)年3月新学習指導要領が公示され、その解説も文部科学省のwebページで公開された。いよいよ新学習指導要領の実施に向けて舵がきられた。さて、教育現場では、実施へのロードマップが描けているのであろうか。「外国語の時間をどのように確保すればよいか」「教科道徳の評価はどのようにすればよいのか」「プログラミング教育なんてやったこともない」といった、表面的な変化に対応するだけで手一杯であるという声も聞かれる。

しかし、である。これまでに学習指導要領の全面的な改訂は戦後6回あったが、従来と今回の違いに注目していただきたい。これまでの学習指導要領では、各教科において「何を教えるか」という内容のみが示されていた。今回はというと、「新しい時代にふさわしい学習指導要領の基本的な考え方」が示され、「@『何を教えるか』 A『何を学ぶか』その結果として B『どのような力が身に付いたか』」という資質・能力の育成に言及、そのために「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方」を一体として捉え、各教科においてその具体が示されたのである。算数科の解説編は、実に300ページを超えるものになっている。国家において指導方法までも統一するのかという捉え方もあろうが、このように構造的な変化が求められる時代の到来を感じとり、真摯に向き合う必要性があるのではないだろうか。本稿においては、その変化にどのように対応していけばよいのか、教科学習-算数科教育-の視点から共に考える機会としたい。

2学習者主体の授業へのパラダイムの変換を

2-1 教師主導の一斉指導法

近代学校教育制度の原型は、言うまでもなく16世紀後半のヨーロッパに見られる。同年齢は同学年という原則が確立した。子どもたちは、強制的に学校に通わされ、机に座らされて、静かに学級担任の話を聞く。学級担任は、道徳者であり教育の専門家であり全人格の体現者であるとされ、学習面と生活面の面倒を見る。学校における生活は、時間で細かく規定され、規律が重視される。学校の建物は、集団毎に区切られ閉鎖的な空間であった。このような学校教育制度が長い間、受け継がれてきた。それは、時代の要請でもあり、一定の成果を上げてきた。日本でも、教師主導の一斉指導法によって高い学力を世界に誇ってきた。

けれども、社会や世界は動いている。世界共通の課題が山積している。となると、これまでの知識を伝達し、それを早くたくさん記憶する学習者を生み出すという授業形態の見直しが迫られる。学習者が事象の中から問題や課題を発見し、その解決を図るために方法を模索し、必要な情報を収集して互いの知恵を寄せ合うような授業が必要となってこよう。ともすれば、受動的な授業だったものを、学習者が主体となり、協働的に学ぶという学習の形態の充実が目指されることとなる。

2-2 「学びのイノベーション事業」以降の算数科教育の授業方法の改善

そのような授業への改善の視点に寄与するのが、タブレット端末であると言えよう。これまでの学習活動に使うツールは、黒板にしろ、各教科の教具にしろ、教師が一斉指導を行うために有効なものが多かった。けれども、タブレット端末は、これまでの様々な実践で報告されているように、個で考えを練ることの他に「ペアで、グループで、学習支援システムを活用することで全体で」の交流や検討、合意形成に寄与する。

例えば、「学びのイノベーション事業」は、平成23(2011)年度から2年間実施された文部科学省の事業であり、「一人一台の情報端末、電子黒板、無線LANなどが整備された環境下で、ICTを活用して子どもたちが主体的に学習する『新たな学び』を創造するための実証研究」であった。「新たな学び」として @「意欲・関心を引き出し、理解を深める学び」 A「一人ひとりの能力や特性に応じた学び(個別学習)」 B「子どもたちが教え合う学び(協働学習)」 C「つながる学び、広がる学び」 D「特別な支援を要する児童生徒の可能性を高める学び」が掲げられている。そして、「算数科におけるICT活用例とその効果」に関しては、以下のようにまとめられている(<図1>参照)。

図1 算数科におけるICT活用例とその効果
関連する
評価の観点
主なICT活用例 活用の効果
算数への関心・意欲・態度 指導者用デジタル教科書にある図形やグラフ等の教材を大きく提示して、要点を書き込みながら分かりやすく説明する。 図形を構成したり作図することや、グラフから伴って変わる2つの数量の変化を読み取ろうとしたりするなど、算数への関心・意欲を高めることができた。
デジタル教材を用いて、児童がタブレットPC上で自由に図形を動かしながら、図形の性質について考える。 様々な視点から図形を観察できるので、図形に対する興味が高まり、いろいろな図形の性質を見つけようとするなど算数への意欲を高めることができた。
数学的な考え方数量や図形についての技能 複合図形の面積について、児童がタブレットPC上に考え方と式を書き、様々な面積の求め方について話し合う。 複合図形を分割する方法を様々に工夫したり、互いの考え方の違いに触れたりすることで、図形の面積の求め方についての考えを深めることができた。
児童がタブレットPCを使って九九に関するフラッシュ教材を繰り返し練習する。 ゲーム感覚で、タイムや正当数を競いながら、短時間で何回も練習することができ、整数の計算に関する技能が深まった。
数量や図形についての知識・理解 対称図形の特徴について、電子黒板でデジタル教材などを提示して児童が確認する。 図形を折りたたんだり回転させたりする動きを確認することができ、対称図形についての理解を深めることができた。
タブレットPCを使って、児童が正三角形や二等辺三角形のしきつめを行う。 簡単に図形を動かせるので、二等辺三角形や正三角形で平面を敷き詰めて、敷き詰めた図形の中にいろいろな形を認めたり、できる模様の美しさを感じたりするなど、図形の豊かな感覚を育てることができた。
平均の学習において、高さの違う積み木を同じ高さに積み直す様子などを、デジタル教材のシミュレーション機能を用いて電子黒板で提示する。 視覚的に分かりやすく提示することで、平均の意味について理解することができた。

「大きくて提示して、書き込む」ことにより、教師の説明がしやすくなり児童の課題把握が容易となり、児童の関心・意欲を高めることができることや児童がデジタル教材を自由に「動かす」ことで繰り返しの試行錯誤が、児童の思考を活性化させることなどが報告されている。

この事業以後も課題把握の際に関心・意欲を高める提示のしかたや図形領域においては図形を「切り取り変形させる」「ある条件をもとにシミュレーションする」などの学習活動の蓄積が多く見られるようになった。ただし、図形の学習におけるICT活用は要注意である。図形の学習で最も大事にするべきことは、子どもが自分の手で図形に触れること、自分の手で作ることというように図形を実体として認識する体験である。図形は視覚的に活用しやすいからといって、安易なICTの活用は避けたい。特に立体図形の場合は、空間認識を獲得する上で「辺と辺の対応関係」や「面と面の関係」などを自分の手で操作し実感するという学習を大事にすることを忘れてはいけない。つまり、教科の特質に応じた活用が重要であるという、当たり前のことに行きつくのである(<図2>参照)。

3新学習指導要領とタブレット端末の活用

3-1 「算数科」改訂の注目ポイント

さて、新学習指導要領に話を戻そう。新学習指導要領では、各教科の目標を「何を学ぶか、どのように学ぶか+育成を目指す資質・能力」で整理されている。児童が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすると共通の考え方が見てとれるようになっている。

ちなみに、算数科の目標は、次の通りである。

図2 算数科の目標

第1 目標
 数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)数量や図形などについての基礎的・基本的な概念や性質などを理解するとともに,日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする。

(2)日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力,基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・発展的に考察する力, 数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表したり目的に応じて柔軟に表したりする力を養う。

(3)数学的活動の楽しさや数学のよさに気付き,学習を振り返ってよりよく問題解決しようとする態度,算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度を養う。

そして、現行の学習指導要領では、4領域「数と計算」「量と測定」「図形」「数量関係」だったものから「数と計算」「図形」と「測定」「データの活用」(1年から3年)「変化と関係」「データの利用」(4年から6年)と、統計を意識した領域に変更される(<図3>参照)。それは、「審議のまとめ」の「統計的な内容等の改善」に見られるように、「社会生活などの様々な場面において、必要なデータを収集して分析し、その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりすること」の重要性の指摘を受けてのことである。つまり、算数・数学というとどうしても正解が一つしかない答えを出す教科であると捉えられがちであるが、実は、必要な情報を取り出し、解釈し、正解が一つとは限らない答えを自分なりに出すというプロセスも、これからの算数・数学教育では一層重要視されてくると言えよう。

図3 新旧の領域比較
改訂後 現行
全体 A 数と計算
B 図形
C 測定(1〜3年) C 変化と関係(4〜6年)
D データの活用
A 数と計算
B 量と測定
C 図形
D 数量関係
数学的活動 算数的活動

平成29年3月31日公示より作成

小学校算数「データの活用」の指導内容としては、これまで中学1年で扱っていた代表値が第6学年に移行されてきた。指導内容では、第5学年及び第6学年の「ア 知識及び技能」の中に「統計的な問題解決の方法を知ること」という記述が見られる。これは統計的な問題解決について把握し、必要に応じて自分で実際に実行できるようになるという学習が意図されていると考えられよう。第4学年以降の「イ 思考力・判断力・表現力等」の記載にも同様の意図が見てとれる。つまり、第4学年から目的に応じたデータ収集など問題解決色が濃くなる構成となっている。第1-3学年の指導においても、題材や活動において問題解決的なものを取り入れることで、中学年以降へとつなげると解釈できよう(<図4>参照)。

図4 「データの活用」指導内容の主な変更点

小1

  • ものの個数について、簡単な絵や図などに表したり、それらを読み取ったりすること。

小3

  • 棒グラフの特徴やその用い方を理解すること。
  • 最小目盛りが1、5又は10、50などの棒グラフや、複数の棒グラフを組み合わせたグラフなどにも触れるものとする。

小4

  • 折れ線グラフの特徴とその用い方を理解すること。
  • 複数系列のグラフや組み合わせたグラフにも触れるものとする。

小5

  • データの収集や適切な手法の選択など統計的な問題解決の方法を知ること。
  • 複数の帯グラフを比べることにも触れるものとする。

小6

  • 代表値の意味や求め方を理解すること。
  • 度数分布を表す表やグラフの特性及びそれらの用い方を理解すること。
  • 目的に応じてデータを収集したり適切な手法を選択したりするなど、統計的な問題解決の方法を知ること。
3-2 問題解決的な学習とタブレット端末の活用

算数科の指導時数は増えていないため、実際の指導においてどのように問題解決的な方法を取り入れ、「個で考えを練る」「ペアで、グループで、学習支援システムを活用することで全体で」の交流や検討、合意形成をするというような学習活動を充実させていくかについては、今後実践を積み重ね、検討を進める必要があると言えよう。

筆者は、次のような授業を提案したい。

@低学年から目的に沿ってグラフ表現を創り上げる学習活動の重視

川上(2015)の事例に「乳歯の抜けた本数」(離散的な量的データ)を題材とした授業(第2学年)がある。顔カードに15人の児童の名前と抜けた乳歯の本数を記し、抜けた本数を比較するために、ばらばらに並べられた絵カードを自分なりの方法で分類・整理している(<図5>参照)。本事例では、それぞれの考えたことを基に、クラスで話し合いながら黒板に貼られたカードを目的に沿って並び替え、本数順に並べた絵グラフへと練り上げていくという実践である。児童の素朴な発想から本数順に並べることで人数の把握が容易になることを児童自身に発見させられる優れた実践である。けれども、何組も個人カードを用意する必要があるし、黒板でカードを移動するということは、代表児童にしかできない。また、黒板でカードを移動してしまうとその前の考え方と比較することができないなどの問題点がある。それを解決するのがタブレット端末である。一人一人がタブレット端末を操作することで、様々な視点からの分類・整理が試行でき、そのプロセスを保存しておくことで、学級全体での比較が可能になる。

低学年段階では、授業の中では探究的なプロセスの一部しか経験できなかったり、教師主導で探究的な授業が行われたりすることもあり得る。しかしながら、児童自身は解決すべき統計的な問題を把握し、目的意識を明確に持った上で、前述のような探究プロセスを経験することに重きを置きたい。こうした経験が土台となり、中・高学年のそして、中学校においては、生徒が主体となって学習できることを期待したい。

図5
A第4学年「折れ線グラフ」の学習のこれまでの課題を解決

第4学年の折れ線グラフの指導において、これまでの授業では折れ線グラフを導入するために棒グラフを一時的に利用するという学習が行われていた。けれども、同じ資料の時系列的な棒グラフと折れ線グラフとを重ねて表現したり、また両グラフを学習支援システムを利用して電子黒板などで大映しにし比較したりする場を設定することで、児童がより棒グラフと折れ線グラフの関連性や相違を明確に理解できるようになると考える。

<図6>は、初めは「月別気温調べ」という表から棒グラフで表し、折れ線グラフへと再作成したものである。ただし、その前に教師は「表では気温の変化の様子が読み取りにくい」点を押さえ、次に棒グラフを見ながらその変化の推移を手の動きで表現させ、それを折れ線グラフにつなげるという手立てをとっている。タブレット端末を使うとグラフの作成が容易になるとはいえ、そのような教師の押さえや手立ては必要である。

図6
B身近な「公的データ」を教材化

高学年になったら、例えば、総合的な学習の時間と連動させてデータの裏付けをもってふるさとの特徴を見出す学習活動などはどうだろう。これまでは、自分たちの足でよさや特徴を見出す活動が多かったが、そこに公的なデータを入れることで、より客観的にふるさとのよさや自慢を見つめ直し、ふるさとへの愛着を深める機会となるのではないだろうか。教師は、事前に「どのデータが使えそうかデータを吟味する」ことと「データが示す傾向を読み取り、分かりやすいクグラフで示す→特徴をもとに、自分の主張を創る」というプロセスを踏ませる単元計画を練ることが必要である。

タブレット端末を利用すると、主張の根拠となるデータを収集し、根拠を示す際には、元のデータの必要な部分を拡大提示したり、囲んだりして示すことができる。本事例案は、「日本統計教育学会統計教育分科会」のワークショップ資料を基に発案した。

C教育課程部会「算数・数学ワーキンググループ」資料から

第5学年「帯グラフの学習の充実-日常生活の事象について、データを収集しグラフにし分析することを繰り返して、物事を判断することができる」などにおいて、グラフを作成したり、人数のグラフを割合のグラフに作り替えたり、新たな疑問を解決するためにデータを作成し直すなど ICTの活用が提案されている。

4おわりに

@ - Cの学習活動において、タブレット端末を活用することで、「グラフなどを作成する - 重ねる」 「書き込む - 消す」 「動かす - 戻す」 「保存する - 提示する」などが容易になることを示した。これらの例を参考に、ぜひ算数科における問題解決的な方法を取り入れ、「個で考えを練る」 「ペアで、グループで、学習支援システムを活用することで全体で」の交流や検討、合意形成をするというような学習活動を充実させるような事例が蓄積されることを願いたい。

そして、学校や地域において、今回の学習指導要領が求める構造的な変化について積極的に論議し、カリキュラムへと反映されることを期待したい。

【参考文献】

  1. 文部科学省(2014)「学びのイノベーション事業実証研究報告書」
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/030/toushin/1346504.htm(2017,10,10参照)
  2. 川上貴(2015)「中学校との連携を志向した小学校における統計カリキュラムの改善に関する一考察 -「統計的推論力」の育成に着目して-」西九州大学子ども学部紀要第6号 pp13‐21
  3. 第13回統計教育の方法論ワークショップ資料(2017)
    http://estat.sci.kagoshima-u.ac.jp/SESJSS/edu2016.html(2017.10.10参照)
  4. 教育課程部会「算数・数学ワーキンググループ」資料(2016)
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/05/11/1370455_6_2.pdf(2017.10.10参照)

(2017年12月掲載)

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