学習指導要領/教育の情報化

学習指導要領改訂の動向について 石田 有記 文部科学省 初等中等教育局教育課程課専門官

新しい学習指導要領改訂の背景

新しい学習指導要領の改訂の背景には情報化やグローバル化などの急激な進展をあげることができます。特に近年はAI(人工知能)の進化によって人間の予測を超えて社会的変化が進展しています。しかし、AIがいかに進化しようとも、それが行うのは与えられた目的の中での処理です。我々人間は、感性を豊かに働かせながら「どのような未来を創っていくのか」「どのように社会や人生をよりよいものにしていくのか」という目的を、自ら考え出せます。あるいは、「唯一絶対の解」ではなく、答えのない課題に対して、多様な他者と協働しながら「目的に応じた納得解」を見いだせるという強みを持っています。

中央教育審議会では、そうした社会的変化の中で、子どもたち一人一人に予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して自らの可能性を発揮し、よりよい社会と自分自身の人生を幸福なものとして創っていく。その「創り手」となっていけるようにすることが重要となっていること、すなわち、様々な情報や出来事を受け止め、主体的に判断しながら、自分を社会の中でどう位置づけて、社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、課題を解決していく力が社会的にも求められているとの議論をいただきました。

とりもなおさず、こうした力は長年「生きる力」の育成として学校の先生方が大事にしてきたことであり、それがあらためて社会の要請としても求められている今は、学校と社会がよりよい学校教育を通じて、よりよい社会を創るという目標を共有して、連携していく好機にある。このような文脈で「社会に開かれた教育課程」の実現が重要との答申をいただきました。

社会に開かれた教育課程へ

答申では「社会に開かれた教育課程」として、3つの視点が謳われています。①よりよい学校教育を通じて、よりよい社会を創ること、②子どもたちが社会や世界に向き合い自分自身の人生を幸福なものとして創り、人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化していくこと、そして、③学校教育が目指すところを地域と共有し、地域のお力添えをいただき学校教育を充実させていくことの3つです。

②の「…人生を切り拓いていくために求められる資質・能力」とは、まさに「生きる力」とも重なるものです。今回の改訂は「生きる力」を理念に終わらせずに、社会に出た時に生きて働く資質・能力としてしっかりと育んでいくことが大切であるということで、答申においても「『生きる力』の理念の具体化」として表現されています。

そうした基本的な考え方を踏まえた新しい学習指導要領の改訂の方向性を整理してお示ししたのが【図1】です。「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む」という「社会に開かれた教育課程」という基本理念を実現するために、「何を学ぶか」、「どのように学ぶか」、「何ができるようになるか」という視点から学習指導要領の内容や構造を改善することとしています。この3つの視点は教育課程をどう編成し、実施し、評価し、改善していくのかというPDCA サイクルにもかかわってまいりますので、各学校における「カリキュラム・マネジメント」の実現ということも大切な視点となってくるわけです。

日本の子どもたちの現状

日本の子どもたちの学力は、国際的に見てもトップレベルです。それは、中学校2年生を対象にしたTIMSS2015(国際数学・理科教育動向調査)や、高校1年生を対象にしたPISA2015(OECD 生徒の学習到達度調査)の結果にも表れています。また、10年間実施してきた全国学力・学習状況調査の結果でも、下位県の成績が全国平均に近づいており、学力の底上げが図られている状況にあります。世界トップレベルの学力であり、また学力格差も全国的には縮まっている。これは、まさに日本の先生方の日々のご尽力の賜物であり、日本の学校教育の強みであります。

そうした意味では、日本の学校教育は、学力全体の保証という視点を越えて、さらに学力をめぐる個別具体の課題に、きめ細かに目を向けることができる状況にあると言えます。

PISA2015の読解力の結果は、国際的には引き続き上位ですが、前回調査と比較すると有意に低下している部分があります。具体的には「自分の考えを説明すること」あるいは「コンピュータ上の複数の画面から情報を取り出して整理し、それぞれの関係を考察しながら解答すること」といった点に課題があります。すなわち情報を取り出して、情報と情報の関係を問い直し、その結びつきを考えるという点が課題となっています。

全国学力・学習状況調査の結果からも、例えばB問題では、国語では「適切な根拠に基づいて説明する」「根拠として取り上げる内容が適切かを吟味する」といった部分、数学では「筋道を立てて証明する」などに課題があると指摘されています。

学習におけるICTの活用も課題です。国際的に見ると、上位のデンマークやノルウェーと比べ、日本では情報機器の活用が進んでいないという現状があります、例えば、教科指導でのICT活用を含んだ学習活動の種類は「情報の収集」と「情報の表現」に集中しています。すなわちインターネットで調べものをしたり、プレゼンテーションを作るといった活用場面に限定され、それ以外の授業での活用可能性が十分に生かされていないことが課題として指摘されています。

育成すべき資質・能力の3つの柱

子どもたちの現状を踏まえ、新しい学習指導要領では育成すべき資質・能力の3つの柱をあらためて示しています。これは「生きる力」としての「確かな学力」「健やかな体」「豊かな心」を総合的に捉えて、3つの柱に整理をしたものです。【図2】

【図2】

育成すべき資質・能力の三つの柱

具体的には、①何を理解しているか、何ができるかという「知識・技能」、②理解していること・できることをどう使うかという「思考力・判断力・表現力等」、③どのように社会・世界とかかわり、よりよい人生を送るかという「学びに向かう力、人間性等」です。

この資質・能力の3つの柱を、各教科等の授業を通じて学校教育全体で育成していくことにより、「生きる力」の育成につなげていこうということです。

とりわけ「知識・技能」の部分では、個別の事実的な知識のみを指すのではなく、それらが相互に関連づけられ、社会の中で生きて働く知識となる、いわゆる概念的知識を含むとされています。例えば、「何年にこうした出来事が起きた」との事実的な知識だけではなく、その出来事が「なぜ起こったのか」それが「どのような影響を及ぼしたのか」を追究していき、知識相互がつながり、関連づけられることによって、社会における様々な場面で活用できる知識として身につけていくことが大切ということです。

こうした「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」は、これまでも各教科等において育成を目指してきたものですが、今回の改訂では各教科等の目標や内容を資質・能力の3つの柱から整理することにより、その教科等を学ぶことでどのような力が身に付くのかといった教科等を学ぶ意義を明確にしつつ、学校段階間、教科等間のタテとヨコの学びのつながりを可視化しています。

学習の基盤としての言語能力と情報活用能力の育成

今回の学習指導要領の改訂では、学習の基盤となる言語能力・情報活用能力の育成を大切にしています。

「言語能力の育成」については、語彙の確実な習得とともに、意見と根拠、具体と抽象を押さえて考えることなど、情報を正確に理解し、情報の扱い方に関する学習を重視しています。また、現行の学習指導要領からの取組である言語活動の充実を引き続き重視しています。例えば、理科等における実験レポートの作成あるいは、立場や根拠を明確にした議論など、各教科等の特質に応じて引き続き充実を図るようお願いしています。

「情報活用能力の育成」については、各教科等におけるコンピュータや情報通信ネットワークを活用した学習活動、プログラミング教育の充実などを図っています。

特に小学校段階では、コンピュータでの文字入力やプログラミング的思考の育成について、算数、理科、総合的な学習の時間などにおいて、その特質に応じた配慮事項などの取扱いを示しています。あわせて、国としても教育ICT教材整備指針(仮称)の策定などを通して学校ICT環境の整備にしっかりと取り組んでいくこととしています。

小・中・高等学校における改訂のポイント

<小学校>

小学校の標準授業時数は、3年生以上で週あたり1コマ増えます。2月に国の協力者会議がまとめた報告書では、授業時数の確保に向けて15分程度の短時間の活用、あるいは長期休業日の調整などをお願いしているところです。国でも、平成32年度の実施に向けて研究指定校を設け、授業時数の確保に向けた参考例を示したいと考えています。各学校でも実施に向けたご準備をお願いできればと思います。

とりわけ外国語教育は、中学年・高学年で、それぞれ活動型・教科型の外国語教育の実施をお願いしています。実施には教材や体制の整備が欠かせませんので、国としても2020年度、平成32年度の全面実施を見据えて、適時、適切に教材等をお示していきたいと考えています。

もう一つは、小学校段階におけるプログラム教育の導入です。小学校段階では、プログラミングを体験する中で、自分が意図する一連の活動を実現するには、どんな動きが必要で、どのように組み合わせればいいのかを論理的に考えるといったプログラミング的思考を育む活動を取り入れることとしています。このような学習活動を、どの教科等、どの学年で行うかは各学校の判断となりますが、小学校の学習指導要領では、例えば、算数、理科、総合的な学習の時間で、プログラミング的思考を育むための教育に取り組む際の配慮事項を示しています。

<中学校>

中学校では授業時数の変更はありませんので現行の教科等の枠組みの中で教育課程を編成いただくこととなりますが、中学校には小学校教育と高等学校教育をつなぐ要の学校種としての役割が期待されています。小学校教育の成果を受け継ぎ、義務教育9年間の集大成として必要な資質・能力を確実に育てていくこと。また、自らのキャリア形成の方向を見いだし、高等学校教育およびその後の学びにつなげていくといった、キャリア教育の要としての大切な役割も期待されています。

具体的な教育内容に関連しましては、小学校の高学年で、教科英語を学んだ子どもたちが入学してくることとなります。その学びを、中学校でどのように受け継いでいくのかという視点が必要となります。また、高等学校の地理歴史科では、世界史必修を改め、世界史と日本史の近代以降を関連付けて学びながら考えを深める「歴史総合」という科目が新設される予定です。このような状況を踏まえて、中学校の社会科の歴史的分野では世界史にかかわる学習を充実しています。これに伴い中学校社会科の中での歴史的分野に関する授業時数の比重を高めています。もちろん今後策定される教科書にもその内容は反映されます。このあたりの動きについてもご留意いただければと思います。

<高等学校>

高等学校の教科・科目の構成は【図3】のとおりです。共通必履修科目が黄色、選択必履修科目が青、そして選択履修科目は白と色分けしていますが、高等学校教育として共通に学んでいく部分と、高等学校の多様な実態を踏まえながら、子どもたちのニーズに応じた科目が選択ができるように教科内での科目構成を見直しています。

学習評価の充実に向けて

学習評価については、観点別学習状況評価の枠組みの見直しが提言されています。現行の学習評価では「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の4観点ですが、今回は学力の3要素として示された学校教育法第30条第2項の考え方を踏まえながら「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点が示されています。既に申し上げましたとおり「知識・技能」の「知識」については、事実的な知識を知っているだけではなく、それぞれの知識の関連性も理解した概念的知識を含めて「知識」としており、従来の「知識・理解」の「理解」も「知識」に含めています。また「関心・意欲・態度」については、学校教育法第30条第2項の規定を踏まえて「主体的に学習に取り組む態度」という観点が改めて示されています。

なお答申では「主体的に学習に取り組む態度」については、学習に関する自己調整を行いながら粘り強く知識・技能を獲得したり思考・判断・表現しようとしたりしているかという、意思的な側面を捉えて評価することが求められているとその趣旨が示されています。

このような評価の趣旨は現行の「関心・意欲・態度」も同様ですが、「関心・意欲・態度」と聞くと―先生方はそうした評価は行っておられないと思いますが―一般の方々にとってはまだまだ「手を挙げる回数で評価する」といった誤解があります。「社会に開かれた教育課程」といった趣旨からも、先生方が学習の評価において大切にしていることを共通に理解していただけるよう「関心・意欲・態度」については「主体的に学習に取り組む態度」という観点に改めるとの提言をいただきました。

「観点別評価については、目標に準拠した評価の実質化や、教科・校種を超えた共通理解に基づく組織的な取り組みを促す観点から、小・中・高等学校の各教科を通じて、3観点に整理することとし、指導要録の様式を改善することが必要である」と言われています。

これまで、小・中学校の指導要録では観点別評価の欄を設けた上で、それをまとめた評定の欄がありました。他方、高等学校の評定については、3観点の結果を踏まえながら評定にまとめていく形をとっています。高等学校教育においても、指導要録の様式の改善などを通じて評価の観点を明確にし、観点別学習状況の評価を更に普及、充実させていくことが必要との提言をいただいております。

また答申では、観点別評価として示された3観点については、毎時間の授業ですべてを見取る必要はなく、単元など内容や時間のまとまりの中で、学習・指導内容と評価の場面を適切に組み立てていくことが大切であるとしています。例えば、この時間では「思考・判断・表現」に焦点化して評価を行う、次の時間では「知識・技能」に焦点化して評価を行うといったように、単元全体を見通して子どもの学習状況を見取っていくとの考え方を引き続き重視していくこととしています。

「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の視点

次に、中央教育審議会の答申では、「アクティブ・ラーニング」について、特定の指導方法を示すのではなく、今ある様々な授業実践について、子どもたちの「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」を実現するという観点からどのような改善が考えられるかという、授業改善の視点として示してはどうかとの指摘をいただきました。【図4】には答申に示された「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の定義を書いています。

例えば「主体的な学び」ですと、見通しを持って粘り強く取り組む場面が展開されているか、自己の学習活動を振り返って次につなげていくような状況が生み出せているかということが大切になります。

また「対話的な学び」では、子ども同士の協働や教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手がかりに考えることを通じて、自己の考えを考え深める対話的な学びが実現できているかが大切になります。例えば、石田君は、初めは「こういうことかな?」と思っていたけど、A君やB君、C君との対話を通じて「あ、そういう考え方もあるのか」と他の友達の考え方を取り入れ、自分自身の考え方をより鍛え広げていくことが大切になります。つまり、みんなの意見を聞いて「僕の考えはこういうふうに深まった」といったように、対話的な学びを通じて自分の考えを広げ深めることができているか。単にディベートや話し合いを取り入れるのではなく、話し合いを通じて、その子なりの考えを広げ深めていく手立てが講じられているかという視点で授業を考えるのが「対話的な学び」の視点からの授業改善です。

「深い学び」は、習得、活用、探究といった単元など内容や時間のまとまりの中で、子ども自らが各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせて資質・能力を身に付けていけるような授業の構成を工夫することが大切です。その際、特に重視する学習活動として、知識を相互に関連づけてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだしたりして、解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かっているのかなどが例示されています。

これらの学習活動は、どの教科等でも展開が想定される学習活動ですが、例えば、算数科や理科では、問題を見いだして解決策を考えていくことなどが、図画工作科や美術科では、自分自身の思いや考えを表現していくことなどが、国語科や外国語科では、読むことや書くこと等々において、情報を精査しながら自分自身の考えを形成していくことなどの、学習活動が考えられます。学習指導要領では、それぞれの教科等の第3の指導計画の作成と内容の取扱いにおいて、主体的、対話的で深い学びの視点からの授業改善に取り組む際にどのような学習活動の充実を図っていただきたいかを示していますので、のちほど学習指導要領の記述をお読みいただければと思います。

子ども自らが各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を
働かせて資質・能力を身に付けていけるような授業の構成を
工夫することが極めて大切です。

「深い学び」のキー概念である「見方・考え方」

「深い学び」のカギとなるのが「見方・考え方」です。各教科等の目標を見ると、例えば中学校の国語では「言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す」と示されており、資質・能力を育成するために、言葉による見方・考え方を働かせることを重視しています。

学習指導要領では、それぞれの教科等の目標において「○○による見方・考え方を働かせ」と示しており、その教科等の特質に応じた見方・考え方をしっかりと働かせるような学習活動の充実を目指しています。

各教科等における習得・活用・探究という学びの過程においては、“どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのか”と、物事を捉える視点や考え方も鍛えられていきます。例えば、算数・数学科においては、事象を数量や図形およびそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的、発展的に考えていく。国語科においては、対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味や働き、使い方などに着目して捉え、その関係性を問い直して意味づけるといったように整理できます。

このような「見方・考え方」は、大人になって生活していくときにも重要な働きをします。例えば、データを見ながら考えたり、アイデアを言葉で表現する際には、数学科における「数学的な見方・考え方」や国語科における「言葉による見方・考え方」が生きて働きます。

このため、単元など内容や時間のまとまりの中で、子ども自らが各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせて資質・能力を身に付けていけるような授業の構成を工夫することが大切です。今後、教科等別に学習指導要領の解説書がまとめられますので、その中で「見方・考え方」についてより具体的にご説明する予定です。

「主体的・対話的で深い学び」という授業改善の視点は、
全くの新しい視点ではなく、優れた教育実践において既に
実現されている子どもたちの学びの姿でもあります。

「アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善」
における留意点

この「アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善」については、答申では、いくつかの留意点が示されています。

1点目は、総合的な学習の時間や特別活動におけるいわゆる特別な活動だけを指すものではなく、国語や各教科における言語活動、社会科での課題を追究し解決する活動、理科において観察・実験を通じて課題を探究する学習など、すべての教科等における学習活動にかかわるものです。このため、新たに何かを行っていただきたいということより、これまで充実を図りながら取り組んできた観察・実験など既にある学習活動を改善・充実させていくための視点であることに留意が必要であるということです。平たく言いますと、新たに「主体的・対話的で深い学び」を展開するための時間を設定してくださいということではなく、これまでも行ってきた各教科等における言語活動や理科における観察・実験の質を高めるために、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」という授業改善の視点を活用いただきたいということです。

2点目は、単元など内容や時間のまとまりを見通した学びの実現が大切ということです。1時間1時間の授業の中で「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の全ての実現を目指すのではなく、単元など内容や時間のまとまりを見通して、主体的に学習を見通し、振り返る場面をどこに設定するのか、グループで話し合いをする場面はどこに設定するのか、学びの深まりを作り出すために、子どもたちが考える場面と教員がしっかり教えていく場面をそれぞれ設定し、それをどう組み立てていくのか、といったように「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の場面をデザインしていくことが大切であるということです。このような留意点を踏まえながら「主体的・対話的で深い学び」の視点に基づく授業改善をお願いできればと考えています。

なお、先ほど申し上げましたように、この「主体的・対話的で深い学び」という視点からの授業改善は全く新しいものではありません。例えば、全国学力・学習状況調査のクロス集計の結果では、自ら学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するといった学習活動の取り組みを行っている学校の方が、あるいは、学級やグループの中で、自分たちで立てた課題に対して、自分から取り組んでいるという児童生徒の方が、平均正答率が高い傾向にあります。これらの学習活動は先ほどご説明した「主体的な学び」や「対話的な学び」にもかかわる授業実践です。

このように「主体的・対話的で深い学び」という授業改善の視点は全くの新しい視点ではなく、優れた教育実践において既に実現されている子どもたちの学びの姿でもあります。こうした調査結果も参考に、各学校における主体的、対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の在り方を考えていただければと思います。

カリキュラム・マネジメントの3つの側面

続いて、カリキュラム・マネジメントの3つの側面です。1点目は、各教科等の教育内容を教科等横断的な視点で捉えることです。情報活用能力も単独の教科等ではなく、それぞれの教科等の特質に応じて育んでいきます。

2点目は、PDCAサイクルを確立することです。情報活用能力の育成を目指した場合に、子どもたちの学習の実態やICT環境の整備などについて、現状はどういう状況にあるのかを踏まえて、次年度の教育課程や教育環境を改善していく、PDCAサイクルをしっかり回していくことが大事です。

3点目が、教育課程の実施にあたって人的・物的資源をどのように組み合わせていくのかです。すなわち、「教科等横断的な視点で教育内容を捉える」「PDCAサイクルの確立」「教育資源をどう活用していくのか」という3つの側面が大事だと謳われています。

この考え方を踏まえて、学習指導要領総則も改善しています。①「何ができるようになるか」、 ②「何を学ぶか」、③「どのように学ぶか」、④「何が身についたか」、という視点に加えて、学習指導にいわば横串を通す視点としての⑤「子どもの発達をどのように支援するか」という特別支援や生徒指導といった視点、さらには⑥「実施するために何が必要か」という指導体制などの校務分掌や家庭・地域との連携・協働の在り方といった視点。このようなカリキュラム・マネジメントの改善を考える上で重要な6つの視点に沿って学習指導要領総則の章立てを改善することにより、各学校におけるカリキュラム・マネジメントを支えることを目指しています。

業務の適正化、部活動の負担減など条件整備へ

学習指導要領の円滑な実施に向けては、国としても「実施するために何が必要か」という条件整備の視点をもつことが大切です。国では、教員の研修の充実、あるいはチーム学校を含めた教員の数の充実、また地域との連携・協働の推進をそれぞれ進めています。

先般公表されました教員の勤務実態調査の速報値の結果では、小・中学校の先生方の平日の勤務時間の平均が11時間を超える状況にあることが分かりました。この結果などを踏まえ、文部科学省でも、学校現場における業務の適正化が喫緊の課題であると捉えています。この4月には中学校におきまして部活動指導員を制度化いたしましたが、その実をあげるために部活動の負担軽減に取り組んでいくことも大切です。また校務支援システムの活用を通じた校務の軽減も、教育の情報化の観点からの重要なてだてとなります。

また、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業準備の時間を確保しつつ、様々な指導事例の提供を通じて、先生方の授業づくりを支えていくことも大切です(※)。

最後に、高大接続改革について。高校の教育が変わるには大学入試の改善も必要です。学習指導要領の改訂と足並みをそろえ、大学入試の改善も進めていくこととしています。

※ 独立行政法人 教職員支援機構の次世代型教育推進センターにて授業実践事例などを
掲載しています。
http://www.nits.go.jp/jisedai/

タブレット端末活用セミナー2017(大阪会場:平成29年4月29日)特別講演より
(2017年8月掲載)