学習指導要領/教育の情報化

学校情報化診断の結果から見る「教育の情報化」の動向と次期学習指導要領に向けた今後の展望

学校情報化診断の結果から見る現状

私ども日本教育工学協会(以下、JAET)は、教育の情報化の推進を支援するために2014年より「学校情報化認定事業」に注力して取り組んでいます。国は、整備状況に関する調査は行っていますが、活用状況の調査は行っていません。JAETとしては、多くの学校に学校情報化認定にご登録いただき、多くのデータを集約することで、どういった施策が必要なのかを活用状況のデータに基づいて訴えていきたいと考えています。

学校情報化認定とは
教育の情報化の推進を支援するため、学校情報化診断システムを活用して、情報化の状況を自己評価し、総合的に情報化を進めた学校を認定する事業です。審査は、JAETの役員で構成される学校情報化認定委員会が定めた基準に従って行っています。
【学校情報化認定Webサイト】
http://www.jaet.jp/katudou/nintei/

現在、登録されている約2,000校のうち、昨年の「学校情報化診断システム」の集計結果(695校分)から、項目ごとに現在はどのような状況なのかを見てみたいと思います。

教科指導におけるICT活用

「教科指導におけるICT活用」に関しては、校種別で見ると、小学校は高く高等学校は低い傾向にあります。また「普通教室におけるICT環境」の整備が進んでいない学校は、「教員のICT活用」や「児童生徒のICT活用」もできていないという相関関係が見られます。しかし、「教材研究・指導の準備・評価等におけるICT活用」については、どの校種においても比較的高く、先生が自分で教材を作るといったことは多くの先生が取り組まれていることがわかります。

そして「ICT活用による学力向上」は、これまで低かったのですが、ICT活用が学力向上に寄与するというデータが、さまざまに出てきたことからも認識化されるようになったことで高くなりつつあります。

学校情報化診断の状況(2015.4-2016.3 695校)
情報教育

『情報教育』も高い順に小・中・高と並びます。『教科指導におけるICT活用』に比べて全体的に低く、特に「情報活用能力の育成と評価」が課題となっています。日本では90年代ごろから情報教育に取り組んでいて、コンピュータ教育と勘違いされていたという部分が非常に大きく、この認識を何とか変えていかなければならないと思います。

もう一つの課題は、情報教育で扱う情報が、アナログからデジタルにシフトしているということです。すでに皆さまの日常生活では、デジタル情報の方が多くないでしょうか?調べ物をするときに百科事典は広げないですよね。コミュニケーションもインターネットを介したデジタルで行われます。ですので、「情報教育」を学校の中で行うには、「児童生徒のICT活用環境の整備」を進めなければいけないと言えます。

校務の情報化

『校務の情報化』は比較的高いです。これは、ICTは自治体単位で導入していることもあり、学校情報化認定に登録してくださっているような学校は、自治体として熱心に取り組まれているところが多いですから、比較的高い状況にあるのではないかと思います。

情報化の推進体制

問題は推進体制です。管理職のリーダーシップや学校あるいは教育委員会の連携などが低くなっています。情報化の支援体制については、現状においてICT支援員の配置も難しいという課題もあります。

こうして見ると課題ばかりで、めざすレベルに到達している項目はありませんが、これらのような現状に基づいて考えていくことが大切だと思います。

どうやって活用レベルを高めるのかが大きな課題

JAETでは、2016年10月に佐賀県で行う「第42回全日本教育工学研究協議会全国大会」では、初めて優良校が一定以上の割合になった先進地域を表彰します。また、優良校になると認定証を贈らせていただきます。そして、応募のあった学校の中から審査によって選ばれた学校先進校として表彰します。

学校情報化認定委員会は、特に学校現場と深くかかわっている先生方が審査を担当しております。本当は、1~2年で優良校の認定が1,000校ぐらいに達するかと思っていましたが、現在のところは約130校です。基準が厳しいといったご意見もいただいてますが、0~3という4段階評価のうちレベル2は、今まで国がやろうとしてきたことを達成していれば到達するレベルだと考えております。次の学習指導要領に向けて、われわれとしても優良校を増やし、先進地域を増やしていきたいと思っています。なお、先進地域の応募基準は、自治体において80%以上の学校が優良校に認定されることです。

今年、応募された地域の中で、つくば市は非常に高い水準でした。ICT環境整備の状況を見ると提示装置の常設率、無線LANの整備率、デジタル教科書の導入率がすべて100%で、設置場所を限定しない可動式コンピュータも平均44台あります。さらに、総合教育研究所にはICT支援員も配置されています。

「教科指導におけるICT活用」を見ても、つくば市内の平均と全国平均を比べるとかなり高い水準です。つくば市の特徴として、例えば、中学校では時間ごとに先生が教室を移りますが、つくば市の先生は2時間続きの授業で次に別の教室に移動しなければならなくても、グループやペアでタブレット端末を使いながら生徒同士で情報共有するといった使い方をごく普通に行っています。私は、こういう点がすごいと感じました。

おそらく次の学習指導要領が実施されるころには、日本のすべての学校がこのレベルに達していなければならないのではないかと思います。それを、どうやって実現するかというのが、現在のもっとも大きな課題なのだと思います。

学校情報化優良校

次期学習指導要領の実施に向けて、継続して取り組みたい5つの項目

こうしたことを踏まえて、次の学習指導要領改訂に向けて、これからどういったことを考えなければいけないのか。継続的に取り組めることを5つの項目にまとめました。

今後の展望 (情報化戦略 / 課題への対応)
教育委員会の情報化(普及)戦略

なぜ、つくば市が成功しているかと言うと、まずICTの活用が各学校の教育課程に位置づけられていることが理由として挙げられます。また、市内の全校が小中一貫校でカリキュラムに差がないこと。さらに、学校の全体計画の中にICT活用の重点目標を記載し、各学年、各教科ではどういう点に重点を置くのか、推進体制はどうなのかを整理して小中9年間の中で、どのように指導するのかを体系的にまとめています。こうしたものを全校が作成しています。

もちろん研修もやってますが、こういった体系的な取り組みを進めていくなかで、特に学校がどうやって全体計画を作っていくのかが大きな課題になるのではないかと私は思います。学校情報化認定のシステムに登録していただくと、つくば市のような優良校の資料の一部が閲覧できますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

授業で扱うデジタル情報を増やす

よく耳にするのが「ICTを効果的に活用しましょう」「そのためにどうやって授業をデザインしましょう」という話です。日本の先生方はもともと授業力が高いですし、授業に対して真剣に取り組んでおられますから、「効果的」という言葉が加わると難しい実践をやってしまいます。しかし、紙ベースの情報に加えて、デジタル情報を少しずつ増やしていくことから始めれば、先生方も楽になるのではないかと私は思っています。

子どもたちの手元に読み物資料があり、先生が板書しながら内容を読み取って意見交換するような授業を行うとします。そこに、どうやってデジタル情報を加えるか。例えば、資料に関するアンケートの結果がタブレット端末で見られる。このくらいからスタートすれば、みんなができると思います。

しかし、タブレット端末に「何かを書きましょう」とか、みんなが「情報提示しましょう」と言った途端に、ハードルはすごく高くなってしまいます。ですから、手軽に取り組めるところから始める。それも一つの手ではないでしょうか。

情報教育の普及

例えば、子ども同士が資料を見せあうような場面であれば、紙の資料を見せるのではなく、タブレット端末のカメラで撮影して見せるようにすれば、子どもが使う情報がアナログからデジタルに替わります。しかし、書く場合にはやはりノートやワークシートと鉛筆の方が簡単です。タブレット端末に書くには相当スキルがないと情報量が減りますし、時間もかかってしまいます。最初は、タブレット端末等でデジタル情報を参照し、少し慣れてきたら、重要なところに画面にマーカーを入れて示す、加筆するというように進めていけば良いと思います。

また、プレゼンテーションを行う際にデジタル情報を少し入れたり、プレゼンテーションの様子をタブレット端末で撮影して振り返ったりといった活動を行うなど、情報活用の取り組みの中に、少しずつデジタル情報、情報端末の活用を取り入れていくことがポイントでしょう。

こうした活動以前に少人数のグループごとにホワイトボードなどを活用してプレゼンテーションする活動を、たくさん経験させておくことも大事だと思います。

情報共有はタブレット端末で行い、情報の整理はホワイトボードなどで行うといったように組み合わせて活用しならが調べて、整理して、分析してといった、一連の情報活用のプロセスを体験しながら学んでいくことが重要だと思います。

日常生活で身に付けた情報スキルを活かす

公立の高等学校で、ワークシートを配って、回答は自分のスマートフォンで調べるという事例がありました。ここはタブレット端末がない学校だったのです。私は、高等学校ならこのぐらいは考えても良いと思いました。実際、高校生なら日常生活のなかで調べ物をするときに、すでにやっていることです。

また、ある私立の中高一貫校では、中学生が高校生に研究計画をプレゼンテーションする場面があり、大人でも理解するのが難しい高度な研究テーマを設定しているのですが、高校生たちはタブレット端末を手に持ってプレゼンテーションを聞いていました。そして、途中で「君たち(中学生)が言っていることをインターネットで調べると、内容が異なっているから、それは違うんじゃないか」といったように、情報検索しながら議論するということを行っていました。私どもの講演や大学の講義では、学生の中にも「聞きながら調べる」ということをやり始めている人もいますし、こういった活用方法は十分あり得ると私は思います。

学習者情報を学習指導に活かす

現在、一般的に校務の情報化においては効率化について言及されることが多いですが、おそらくこれからは、校務の情報化によって蓄積・分析された学習者に関する情報を、授業におけるICTの活用や情報教育に活かし、授業改善していくということが求められると思います。

ICTを教室環境に統合して、それを授業に使うということができないのでは「新しい学力観」や「新しい教育方法」「新しい学習環境」に基づいたイノベーションの採用には対応できないと、私たちは考えています。今、イノベーションに取り組もうと考えているわけですが、その前提ができていないのでは、おそらく次の学習指導では非常に厳しい状況になるだろうと感じています。

第42回 全日本教育工学研究協議会全国大会 佐賀大会
ICT利活用教育による新たな学びの創造へ向けて
【期間】平成28年10月14日(金)~15日(土)
【会場】佐賀市文化会館、佐賀県青年会館
http://www.jaet.jp/convention/2016/

「教育の情報化」実践セミナー 2016 in 和歌山(2016.7.24)講演より
(2016年10月掲載)