学習指導要領/教育の情報化

ICTを活用した教育を積極的に推進する自治体を支援

平成27年度の文部科学省予算案では、教育の情報化に関する3つの新規事業、予算額は昨対比約2億円増の約7億円が計上されています。その内容、ねらいについて、豊嶋基暢・文部科学省生涯学習政策局情報教育課長にお聞きしました。(2015年2月取材)

3つの新規事業でICT活用教育の普及へ

平成27年度予算のうち、情報教育分野では3つの新規事業を立ち上げました。予算額としても前年比約1.5倍と大きくなっています。

新規事業の1つ目は、「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」です。「学びのイノベーション事業」の成果を、各自治体が上手く取り入れるための段階として、昨年度は学びのイノベーションと現実を埋めるような形の授業に、17校で取り組んでいただきました。現在その様子をビデオ編集していますが、一般的な小学校・中学校にあるICT環境の中で、実践できる授業を各教科・科目ごとに取り組みました。

本年度の「自治体応援事業」は、この進化版・拡張版だと考えてください。ICT活用教育を推進する取り組みを具体的に始めている自治体に対して、国が応援します。さらに、そこから得られたエッセンスを、ほかの自治体にも広めていくということが主眼となります。

近年、さまざまな自治体でICT活用教育に取り組まれていますが、自治体によって状況はさまざまです。現状に合った応援を行うコースを用意し、次のステップに向かえるように後押ししていこうということです。

3コースで柔軟に自治体を応援「ICTを活用した 教育推進自治体応援事業」

自治体応援事業では、大きく分けて①指導力パワーアップコース(8地域)、②ICT活用実践コース(30地域)、③アドバイザー派遣事業(30地域)、という3つのコースを設けています。

ICTを活用した教育推進自治体応援事業

指導力パワーアップコース

指導力パワーアップコースは、現職教員に教員を目指している学生を加え、ICTを活用した教育のパワーアップが図れるよう、教育委員会が大学と連携して研修プログラムを確立し、実践してもらうことを核としています。

また、この指導力パワーアップコースでは校内研修を意識しています。教育委員会が実施する研修内容を各学校に持ち帰り、校内研修で先生方に落とし込んでいただきたい。これにしっかり取り組まなければ授業に生かしきれません。校内研修を意識して教員養成課程とも連携して、学校現場で生かせるポイントを押さえた研修プログラムを作り上げるために、教育委員会と大学が連携していただきたいと考えています。

ICT活用実践コース

ICT活用実践コースは、学校ごとに得意な分野をテーマとして、それにICTを掛け合わせた形で、年間カリキュラムを完成させることを目指します。これまでの事例というのは、瞬間を切り出したようなものです。どの単元でICTをどのように活用すると効果的なのか。ICTの使い方には濃淡があるのが当たり前で、学校現場で求められているのは、こうした1年間を通じたカリキュラムだと考えています。

この指導力パワーアップコースとICT活用実践コースの2つは、2年間で行う国の委託事業です。つまり、まず1年間実践してみて、自己評価を踏まえてもう1年実践し、2年間で完成させる。そうして各自治体で完成した成果物を、国が束ねて全国に共有して使ってもらえるモデルにしようというミッションです。これは学びのイノベーションとは異なり、小学校、中学校だけではなく高等学校も対象としています。

また、この2つのコースは、ICT環境整備は各自治体で行っていることが前提です。主体的に環境整備に取り組んでいて、その先のステップアップに焦点を当てて応援するという姿勢です。その中で、一定の成果が出るように授業プランを作って実践していただき、そのノウハウを整理した上で全国にシェアすることが目的ですので、第一ステップとしての環境整備については、各自治体で行っていただき、それを次のステップにつなげていきたいという考え方です。

アドバイザー派遣事業

ICT環境整備に至っていない自治体も多くあります。それらに対する応援がアドバイザー派遣事業です。現在、先進自治体と呼ばれている自治体には共通項があり、1年間で先進自治体となったわけではありません。段階的な整備計画があり、それを評価しながら取り組んでおり、つまり整備計画と目標設定がしっかりできていて、それに基づいて進められています。

しかし、自治体によってはノウハウが少ないというのが現実です。そこでICT環境整備や教育目的の設定をどう進めれば良いかについて、アドバイスできる人材を国で委嘱して、自治体のニーズに合わせて派遣します。例えば、調達についてはどうすべきか、導入後の研修についてどうすべきかなど、自治体によってお悩みの点は異なりますから、その課題に合致したアドバイザーを年間3~5回程度 派遣する。そして、その事例を集めて共通する課題に対するマニュアルに仕上げていきます。まずは1年間取り組んでみて、新たな問題点や潜在ニーズがあれば、さらに拡大していきたいとも考えています。

以上3点に取り組むのが「自治体応援事業」で、今回の核となる普及ベースを支えるための事業だと考えています。

遠隔地の学校間を結び、教育の質の向上を目指す

現在、地方創生の話がさまざまな分野で取り上げられていますが、当省では1月下旬、60年ぶりに学校統廃合に関する「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」を改訂しました。統廃合は切実な問題で自治体も真剣に取り組まれています。

しかし、物理的な理由などで統廃合できない場合においては、教育の質の確保が課題に残ります。特に協働学習によって課題解決型の能力を養っていこうとするとき、1学年に3人、4人という環境では、多元的な思考力や判断力を学び合えるかというと、難しいのが実情です。こうした課題に対して、テレビ会議システムを活用するという意見が昔からありました。近年の技術進歩によって、普通の授業で活用できる段階に入ったと感じています。

そこで、2つ目となる「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上にかかる実証事業」では、テレビ会議システムで近隣の学校間を結び、特に主要5科目においては、1年間繋いだ環境で合同授業等を行うことに取り組みます。従来のように1コマだけの、海外や遠方の学校との交流学習ではありません。

この事業は、基本的には小学校、中学校をメインとして3年計画で進め、少しずつ教科科目を増やします。その中で効果がある場面、または効果が出ない場面を見極め、より良い方法を探究していきたいと思います。

社会教育として「情報モラル教育」の普及に取り組む

3つ目は、ICTを推進する部分と同時に情報モラルやネット依存といった影の部分にも対応するため「情報モラル教育推進事業」という形で新規事業に取り組みます。

身近な例で言えば、家庭内でスマートフォンの利用ルールを決めているかという点でも、スマートフォンの利用に関する基礎知識がある家庭と、そうでない家庭では、利用ルールの設定率が違います。情報モラルを定着させるためには、教員や児童生徒に対してだけではなく、保護者目線でも考えていかなければなりません。つまり、社会教育の一環として、情報モラルの普及に取り組む必要があります。こうした活動は、国や自治体、通信事業社、NPO法人などが個別に取り組んでいるのが現状です。

一歩踏み出した自治体を積極的に支援し、好事例として共有したいと考えています。

考えよう 家族みんなで スマホのルールそこで今回、新たにスマートフォンの利用について家族で考えることを提案するスローガン「考えよう 家族みんなで スマホのルール」とロゴマークを制作し(右図参照)、「子供のための情報モラル育成プロジェクト」に取り組んでおり、教育委員会だけではなく、あらゆる分野で賛同いただける団体や企業にも協力を呼びかけています。集客が得意なところ、教えることができるところ、教材を作れるところといったように、各分野の力を集め、一緒に取り組んでいます。個別に行っていた活動を連動させ、繰り返し展開することで、社会全体で子供たちに知恵をつけていきたいということで、そのための共通認識を持っていこうという運動だと、とらえてもらえればと思います。

プログラミング教育、次期指導要領に向けて議論へ

既存の事業においても動きがあります。デジタル教材等の標準化作業は平成27年度を持って仕上げたいと考えています。昨年度は、これまでまとめた仕様案で、実際の授業に活用できるのかという点で実証事業を行っていきました。現在、デジタル教材等の標準化に関する技術仕様をまとめています。また、「先導的な教育体制構築事業」では「普及」の観点ではなく、「もっと前に進む」ために、昨年度から3地域でクラウドを活用して家庭学習と連結した新しい学びを研究するといった、新しいICT活用への取り組み進めています。本年度と来年度の残り2年でまとめていきますが、本年度は、本格的にクラウド接続型の教材を使って実践するので、実証研究として大きな取り組みになると思います。

IT総合戦略本部の「世界最先端IT国家創造宣言」に掲げられているように、プログラミング教育を充実すべきだという話もあります。現在の学習指導要領では中学校の技術・家庭科(技術分野)で、プログラムに関する教育が必修になっていますし、高等学校でも教科「情報」の選択必履習科目「情報の科学」に含まれています。また、小学校でも総合的な学習の時間などを使ってプログラミング教育に取り組んでいる公立学校もあり、こうした事例を集めて、シェアできるようにしたいと考えています。さらに、NPO法人や企業、大学なども小中学生を対象にプログラミング教室などを開いており、それらのノウハウを学校の授業と結合させ、実践に取り組んでもらいます。

プログラミング教育については、プログラミング「を」学ぶのか、プログラミング「で」学ぶのか。つまり、学習内容なのか、学習手法なのかということも教えていかなければなりません。また、小学校にプログラミング教育をいれるかどうかだけで考えるのではなく、小、中、高等学校でそれぞれどのように学び、大学と接続して、社会人になっていくのか。それらを踏まえて、体系立てて考えなければなりません。すでに取り組まれている中学校の技術・家庭科や高等学校の科目「情報の科学」でのプログラミング教育の位置付けや目的がそのままで良いのかも検討しなければなりません。

いずれにしても、全員がプログラマーになるわけではありません。プログラムの専門知識の習得に完全に軸が置かれるのではなく、課題解決の手法、情報活用能力の科学的な視点を具現化したものとして、プログラミングを学ぶことが大事になってくると思います。次期学習指導要領の在り方は、これから中央教育審議会で、他の教科もあわせて全体が整理されます。情報という分野も大きなテーマですから、その中でさまざまな意見を聞きながらカリキュラムの中身を詰めていくことになるでしょう。議論としては、まさにこれからスタートというところです。

整備目標は、平成29年度までに児童生徒3.6人に1台

豊嶋基暢 文部科学省生涯学習政策局情報教育課長第2期教育振興基本計画では、教育用コンピュータについて平成29年度に児童生徒3.6人に1台という目標が示されています。まずは、その目標に向かって自治体で取り組んでいただくことが必要です。

この目標に向かって、タブレット端末の整備に動き出している自治体は、規模に関わらず100を超えています。これらの自治体の共通点は、段階的、計画的に整備する計画を立て、そして自らの自治体経費から整備費用を捻出していることです。

ICT環境整備には費用がかかりますが、これから整備を進める自治体におかれては、まずは整備のプランを具体化することが必要だと思います。例えば、モデル校1校を選出し、40台のタブレット端末を整備したら、そのリース料はいくらなのかといったことを具体的に検討していただきたい。民間側でもさまざまなサービスの提供を始めています。それらをうまく組み合わせてパフォーマンスを向上させていただきたいと思います。

そして、一歩踏み出して整備したとしても、支援員をどうするか、大学教授等の外部有識者による指導をどうするか、教員研修をどうするかなども併せて考えておく必要があります。文部科学省としては、先述した新規事業「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」等を通じて、一歩踏み出した自治体を積極的に支援し、好事例として共有したいと考えています。

(2015年4月掲載)