研究会・セミナー

全国教育工学研究協議会全国大会 JAET2012金沢大会

0日本教育工学協会(JAET)は「知識基盤社会をたくましく生きる子の育成―メディアを生かす“確かな授業設計”―」をテーマに11月2日、3日に第38回教育工学研究協議会全国大会(金沢大会)を開催されました。全国から多数の学校の先生方や研究者、教育企業関係者の方々が参加され、公開授業、基調講演、研究発表、シンポジウムなど、数多くの内容が催されました。シンポジウムの内容をピックアップしてご紹介します。

教育の情報化の先進地「石川県」の研究成果を全国に

今大会のテーマは「知識基盤社会をたくましく生きる子の育成 ーメディアを生かす“確かな授業設計”」。学校教育において、新しい知識・情報・技術が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として、飛躍的に重要性を増す社会で、自らたくましく生きる子どもを育成すること。また、ICTを含めたメディアを効果的に活用することによってわかる授業を具現化し、子ども1人ひとりに確かな学力をつけることが必要である、という考えのもと設定されている。

開会挨拶では、日本教育工学協会(JAET)会長の堀田龍也・玉川大学教授が「新しい学習指導要領は旧学習指導要領に比べて学習内容が格段に増加しており、学校現場ではより一層の学習指導上の工夫、改善が求められている」と普通教室におけるICT活用の必要性を強調された。その一方で、児童生徒自身が1人1台の情報端末を利用できる学習環境を前提とした実践校として、フューチャースクールが全国20校で指定され、実証実験が進んでいることや、同様の学習環境を実験的に整えようとする自治体が増加してきているといった新たな動きに触れられた。

「教育の情報化の分野では、新しい話題に事欠かないほど、さまざまな試みが着手されている。今回の全国大会が開催される石川県は、これまで長い間、我が国の教育メディア研究をリードされてきた。この地で共有され、創造された実践研究の成果が、全国の学校での教育の情報化のさらなる普及・反映につながることを期待したい」と話された。

協働型・双方向型への授業へ革新を

続く基調講演では、新井孝雄・文部科学省生涯学習政策局参事官が登壇。「第2期教育振興基本計画」について触れ、「ハード、ソフト、ヒューマン」の3つの観点から教育の情報化を位置付けていく方向性を示された。また「確かな学力をより効果的に育成するためには、ICTの積極的な活用をはじめとする指導方法・指導体制の工夫改善を通じた協働型・双方向型の授業への革新を図っていくことが必要」と話された。

シンポジウム・授業設計の今日的な課題

「確かな学力」を育む「確かな授業力・授業設計力」(村井万寿夫 金沢星陵大学教授)

優れた教師の条件本大会は、副題を「メディアを生かす“確かな授業設計”」と設定している。石川県教育工学研究会では、アメリカの「教育工学」研究を代表するガニエが提唱した「メディアは、一連の学習状況を具体化するものである。」という立場に立ち、長年にわたって「わかる・楽しい授業実践」に取り組んできた。

また、中教審では望ましい・優れた教師像を示している。図に示したように3領域に分けて、多様な能力・態度を挙げてられているが、その中心には「授業力」が当てはまると考える。「授業力」こそ、教師に求められる中核概念であり、「授業力」の中核をなすのは「確かな授業設計の力」と考える。

そして、「授業設計」が難しいといわれているのが、<総合的な学習>だ。教科学習の授業設計と大きく異なるといわれており、教員はまったく異なる2つの授業設計を求められている。この<総合的な学習>をはじめ、情報活用能力の育成する授業、メディアを「道具」として、また教科の目的を達成する「手段」として活用する授業を設計する力が、「確かな学力」を育むために現在の教師に求められているといえる。

共通体験の充実が鍵。本物体験やメディアの活用を(吉崎静夫 日本女子大学教授)

教科学習と<総合的な学習>は授業設計において大きく異なる。

例えば課題設定一つを取ってみても、教科学習では、教師が授業の課題設定をするが、<総合的な学習>は、個人、グループ、学級全体などで子どもたちに課題をつくらせる。後者には、子どもに「課題を作らせる」という、より高度な指導技術が求められる。

<総合的な学習>の授業過程を「ふれる」「つかむ」「調べる」「まとめる」「いかす」の5段階に整理できる。特に、「ふれる」は授業設計において重要であり、もっとも力を注がなければならない。全体での共通体験が基になり、個別の課題を作り、調べ、そしてまとめで再び全体に合流していくからだ。ここでは本物とかかわらせる体験や映像などのメディア活用が効果的。

教科学習との連携も大切な視点。教科学習で学んだことを<総合的な学習>でいかし、<総合的な学習>でやったことを教科学習に戻す。この意識が弱いとそれぞれがバラバラになる。そして、<総合的な学習>の学びが日常に行動化され、転化されているのか。そこまでを教員は見守りたい。

総合的な学習の学習課程

しらべて・まとめて・つたえる学習のサイクルを繰り返す(南部昌敏 上越教育大学教授)

それぞれの場面で最適なメディアを有効に活用して学習は、「問題解決したい」という欲求と課題意識に基づき、情報を集め、その中から必要な情報を選び、加工し、自分の考えを生成し、相手にわかりやすいように自分なりに表現し、発表・伝達・交流を行うという情報活動サイクルで展開される。その際、それぞれの情報活動は、目的に適したメディアを選択して行われる。その過程で、自分の考えの不十分さや、表現のわかりにくさ、収集した情報の不足、メディア選択の不適切さなどに気づく。その結果、再び情報活動サイクルが動きだし、2 回、3 回…と改善を繰り返すことで学びが深まっていく。

情報活用能力が身についている状態とは「子どもたちが目的に応じた情報活動を行い、それぞれの場面で最適の情報とメディアを効果的に活用して問題解決している姿」と考える。その時、教師は子どもに寄り添い、①どのメディアを、どの場面で、どのように活用し、どのようなプロセスで問題解決に取り組んでいるのか。②結果として問題解決ができたか。③課題を追及する手段として活用したメディアの特性や機能について理解が深まり、新たな課題解決の手段の1つとして自分のものになったか、の3つの視点で看取りたい。

自分で選んだメディアを用いた情報活動経験から、メディアの特性と機能に気づき、より適切なメディアを再選択して再度情報活動を行うことを通して、情報とメディアの活用能力が身につく。

メディアは課題解決のための「学びの舞台」(木原俊行 大阪教育大学教授)

まとめ単元やカリキュラム、授業の中で複数のメディアを活用する「メディアミックス」には「縦」と「横」がある。

縦のメディアミックスとは、教科学習(習得型学習)などにおいて、年間のカリキュラムや単元の中で、「関心・意欲・態度」「知識・理解・技能」「思考力・判断力・表現力」「生きる力」などを育むために、それぞれ適切なメディアを活用すること。そのためには、各単元の学習内容に応じて適切なメディアを見極め、活用する力が教師に求められる。

教科学習(活用型授業)や<総合的な学習>などで、「思考力・判断力・表現力」や「生きる力」を育むとき、学習内容が個別化し、授業の複線化が進む。横のメディアミックスとは、子どもたちの多様な課題解決に応じた「学びの舞台」として、授業の複線化に伴って、多様なメディアが活用されることをいう。この場合、教師には、どのようなメディアを、どれだけ取り入れていくのかを見極める力がより求められる。また、このような授業の学習内容は、多様な解が認められるものが望ましい。教師には十分な準備時間が不可欠になるし、子どもたちも、自学自習的な学びが主柱となるので、多くの学習時間を必要としよう。それゆえ、年間指導計画のどこに活用型授業等を位置づけるかをきちんと計画するカリキュラム開発能力も、教師たちには求められよう。

(2012年12月掲載)