ICT活用教育のヒント

大阪大学サイバーメディアセンターが開発研究する新たな教育学習環境
「WebOCMnext(ウェブオーシーエムネクスト)」

データに基づいた教育を実践するためのeラーニング

子どもたちの1人ひとりの学習状況をつぶさに把握

「eラーニング」という言葉自身は人口じんこう膾炙かいしゃして久しいですが、現時点では各種教育機関(小・中・高・大・専門学校等)の教員におけるeラーニングへの関心は、決して高いとは言えません。eラーニングの理念は、時空の制約を超えて、教育の機会均等を実現することがまず挙げられます。そのためか、eラーニングは対面授業に替わるものという印象が強いのかもしれません。しかし、大切な理念としてもう1つ「データに基づいた教育を実践できること」があります。私はこれを「Data Education」と呼んでいます。

例えば、1クラスに40人の子どもたちが在籍しているとします。その1人ひとりが、どのくらいの学習量によって、どんな変化がもたらされ、どの程度学習が進んでいるのかといったことを、1人の教員が詳細かつ客観的に把握するのは困難です。また、Webブラウザを使った従来のeラーニング教材の多くは、解答したその場で正誤判定や採点を自動的に行い、学習者自身にテスト結果を意識させ、学習に取り組ませるというものが主流です。しかし、サーバ側に学習履歴や成績の記録が蓄積されないため、その場限りになってしまい、教員は学習者の状況を把握することができないという課題があります。

学習データをきめ細やかな指導に生かす「WebOCMnext」

私が提唱している次世代型のeラーニングシステム「WebOCMnext」【図1】は、学習者ごとの学習時間や自己申告による理解度チェック、定期テストの点数など、学習にかかわるさまざまな記録をデータ化し、一元管理することで分析に活用できるのが大きな特長です。教員による教材やテストの作成を支援し、学習者の自主学習をサポートし、その結果を学習者にフィードバックするという一連の流れを一貫して行える仕組み【図2】でなければ、デジタルが持つ効果を最大限に発揮することはできません。私はデジタルが持つ優位性を活用することで、教員の負担を軽減し、学習者へのきめ細やかな評価・指導の実現をめざしたいと考えています。 特に、反復させることで習得するような学習活動の場合は、自律的に繰り返し取り組むことが効果的です。そうした意味で、国内の小・中・高等学校等において次世代型eラーニングは、対面授業に替わるものではなく、互いに補完しあう位置づけだと言えると思います。

「WebOCMnext」Webサイト:WebOCMnext

教員が独自の教材を作りやすく、共有しやすいことが重要

従来のeラーニングは教材作成が難しいことが大きな課題

eラーニングの大きな課題には、紙ベースの教材に比べて教材数が圧倒的に少ないことが挙げられます。教材が豊富であれば、教員は多くの選択肢の中から自分の教育方針にそって、学習者や学習テーマに適したものを選び取って活用することが可能です。

そこで、「eラーニングにおける既存教材が少ないのであれば、自分たちで作ればいい」という発想で生まれたのがWebOCMnextの核となる「ダイナミック教材作成システム」です。デジタルベースで作られた教材は、劣化することなく100%のコピーが可能ですので、一度教材やテストを作れば再利用や再編集が容易に行えるだけでなく、多くの教員が教材を共有することもできます。

しかし、Webブラウザで使用できるeラーニングの教材やテストを作成する場合、HTMLやJavaScriptといったプログラミングの知識や技術が必要となり、非常にハードルが高くなります。こうしたことが比較的簡単にできる、いわゆる「ホームページ作成ソフトウェア」も多数市販されていますが、これらについてもワープロ感覚で手軽に扱えるものではありません。ましてや、音声や画像、動画などのマルチメディアを取り入れた効果的な教材やテストを作成しようとするなら、より高度な技術を駆使しなければ思いどおりの教材は作れません。こうした事情から、従来のeラーニングは市販されている教材を活用することが主流になっており、教材の内容を教員が修正して応用するといったことが難しいのが現状です。

テンプレートを利用し、高度な教材も簡単に作成可能

上記のダイナミック教材作成システムは、HTMLではなくXMLという言語でページを作成する(そのXMLがリアルタイムにHTMLに変換される)のですが、教員はそれを意識しなくても教材作成できるようなテンプレートを用意しています。具体的に説明すると、XMLの基本ルールとして、データはツリー化した階層構造になっており、そのツリーにぶら下がる要素の1つひとつを「ノード」と呼びます。ダイナミック教材作成システムでは、この2点だけを理解していただければ、教材やテストが作成できます【図3】。例えば英語の学習で、@初めに練習問題を受けさせ、Aその得点状況に応じて異なるヒントを提示するといった動的な教材が、ワープロ感覚で作成できます。このように、誰にでも教材が自作できる仕組みを持たなければ、教材の絶対量は増えませんし、学習者に適した教材に修正して活用することもできません。

テストの採点でも、教員の負担を最小化する工夫が大切

理解度を測る小テストや定期テストについても、できる限り作成のための操作を簡略化し、採点の自動化を図っています。例えば、英語の穴埋め問題を作る一例として、「I love you.」という文章を書き「love」の部分を解答させたい場合、「love」を選択してボタンを押すだけで「love」を正答とした穴埋め問題が作成できるようになっています。このとき、「love」ではなく「like」と解答した場合でも部分点を与えたいという場合があるかもしれません。先ほどの例で言えば「love」なら100%、「like」なら30%といったように解答ごとに割合を決めて点数を付与することができます。もちろん選択形式の問題など正答がユニーク(一意)になる問題の場合は、正誤判定はもっとシンプルになります。

英作文のように記述式の問題の場合は、現在の技術では教員が採点するしかありません。自動翻訳の技術が高まれば、ある程度は自動化することも可能になるかもしれませんが、問題作成者の意図をくみ取って解答しているかどうかを判定するには、教員が採点するのが良いと思います。そこで記述問題については、その問題への解答だけをひとまとめにして一覧表示し、効率よく採点できるようにしています。このとき教員が入力した採点結果は、自動採点したほかの問題の点数と合算してテスト結果に反映されます。

学習記録を分析して、データに基づいた教育の実現へ

次に、ダイナミック教材作成システムを使った学習活動では、学習記録を活用することが重要になります。学習時間量と学習者がどこまで学習を終えているのかという進捗状況を見れば、時間量に対してあまり捗っていない学習者がわかるので、適宜、教員からの助言が可能となります。また、自己申告した理解度が5段階のうち4段階目(理解度80%)が選択されているのに、その後の小テストの結果が40%だったとすれば、学習者の自己評価と実際の理解度に乖離があることがわかります。また、辞書機能で調べている単語があれば、その回数も含めて記録されるので、苦手にしている単語もわかります。

こうしたさまざまな記録は、学習者が教材を使用するだけで自動的に蓄積されていきます。教育ビッグデータとも言える、これらの学習記録を分析していくことで、よりきめ細やかな指導に生かせるのではないかと考えています。

例えば、指定した教材を期限までに終えていない学習者を絞り込み、学習時間量を確認して、単に自律学習を怠っていたのか、時間を掛けているけれど指定した教材を終えられなかったのかを確認して、それぞれにフォローメールを送るといったような使い方を想定しています。

しかし、分析についてはまだ課題もあり、この点については教育現場を熟知されたより多くの先生方のご意見やご要望を伺いながら、どんな記録が残せればよいのか、またどのような形でアウトプットできれば活用しやすいのかといった観点で、さらに改良を加えていきたいと考えています。

また、学習者の能動的な学習をサポートするために、自己弱点克服システムという機能も搭載しています。学習者は、辞書機能で繰り返し調べている単語からランダムに単語を出題する小テストを作ったり、単語帳を作成したりして、自律的に学習に取り組むことができるようになっています。

またパワーユーザというユーザ区分を作り、特定の学習者に一般ユーザ以上の権限を持たせることができるようにもなっています。パワーユーザは、自分で独自の教材を作成したり、小テストを作成したりすることができ、ほかの学習者に公開することも可能です。小学校では難しいかもしれませんが、学習者が能動的・協働的に学習に取り組むための試みだと考えていただければと思います。

外国語学習をはじめ、さまざまな分野で活用が広がる

活用の場を広げて実践的な意見を募ることで、改良を加えていく

冒頭で、eラーニングは反復することで習得する学習活動に適しているとお話ししましたが、私がドイツ語を専門としていることからも、ダイナミック教材作成システムは外国語学習の習得には最適な仕組みではないかと考えています。外国語学習は、文法などを学んで理解するだけではなく、繰り返し学習することによって時間を掛けて身につけていくものです。また、学習には音声や画像、動画などのマルチメディアの活用が効果を発揮します。しかし、従来のWebブラウザベースのeラーニング教材では「読む」「書く」「聞く」ということはできても、「話す」という部分に弱点がありました。しかし現在は、Googleなどが音声認識の機能を提供(Web APIの公開)しているので、学習者がブラウザに向かって発した音声を、判定して評価することもできるようになりました。また、ブラウザでの録音も可能となっており、学習者がシステム上で録音した音声を教員が確認して評価することもできるようになりました。

このように、外国語学習はeラーニングが持つ特性をより活用することができます。それだけに、教材の作成や採点、評価を行うには、マルチメディアの活用など非常に高度な機能が簡便に活用できる仕組みが必要になります。逆に言えば、外国語学習に対応することで、そのほかの教科への応用も十分に可能になると考えています。

実際に、外国語学習においては、九州大学が本格的にこのシステムを導入しており、現在約2,700名の学生がこのシステムを活用して学んでいます。さらに、薬剤師国家試験等、国家試験対策のシステムとしても応用の場が広がっています。

実運用を始めると、さまざまな意見や要望が寄せられ具体的な改良点が見えてきます。現在は、大学や専門学校などにおける活用が中心ですが、今後は小・中・高等学校の教員の皆さまからもご意見をいただき、具体的なご要望を取り入れていくことで、この次世代型eラーニングをさらに発展させ、幅広い場面で活用できるように改良していきたいと思っています。

小・中・高等学校等の先生方を対象に“体験”講習会を開催! WebOCMnextのダイナミック教材作成講習会

各種教育機関(小・中・高・大・専門学校等)の教員の方々を対象として、実際にダイナミック教材作成システムを操作していただき、簡単な教材を作る講習会を開催します。

日時 平成29年6月24日(土)午後1時〜午後5時
場所 大阪大学サイバーメディアセンター豊中教育研究棟(豊中キャンパス)
参加費 無料
申込方法 以下のURL(ウェブフォーム)からお申し込みください。
http://www.mle.cmc.osaka-u.ac.jp/koshukai/
申込締切 平成29年4月28日(金)
WebOCMnextのダイナミック教材作成講習会に関するお問い合わせ
大阪大学 サイバーメディアセンター マルチメディア言語教育研究部門

(2017年04月掲載)

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