学習指導要領/教育の情報化

教科教育における活用をふまえて、児童生徒の想像・発想を広げたり、考えを分類・整理したりすることを促進したい

児童生徒の思いや考えを可視化する「マッピング」

タブレット端末の導入が進むにつれて、個人が自分の考えをまとめる場面での活用が求められている。児童生徒の思いや考えを可視化するツールとして、「マッピング」に着目し、Sky株式会社と共同研究開発に取り組んだ。

マッピングは、「語句を線で結んで、蜘蛛の巣状に張りめぐらせていくことで、知識や考えを拡充したり整理したりする方法」(塚田,2005)である。また、鍵概念から連想した言葉(経験や学習内容など)を同心円上に書いていくイメージマップなどの活用例が報告されている(三宅ら,2012)。これらは教科書の表記としても見られるようになってきており、思考ツールの1つとして、学習活動への活用も広がってきている。

これらマッピングの教師の活用意図について、筆者らは、小学校国語科教科書全社のマッピング表記意図の分類を行った上で、比較検討を行った(中川ら,2015)。

その結果、マッピングの活用意図を、「想像・発想を広げる」「話す・聞く視点をみつける」「書く視点をみつける」「考えを分類・整理する」の4つに集約された。国語科を中心に他の教科・領域においても、これらの学習活動の意図を鑑み、活用されていると推測される。もちろん、この分類は、教科書表記からの意図の抽出であり、実際の授業では、「教師が児童生徒の思いや考えを評価するため」にも活用できると考える。

実際の学習内容を想定して開発

マッピングソフトやアプリは、デジタル教科書・教材やソフト会社からの教材に一機能として搭載されていたり、フリーソフトとして公開されていたりしていて、すでにユーザがコンピュータやタブレット端末上で使用することはできる。

しかし、教科教育における活用をふまえて、児童生徒の想像・発想を広げたり、考えを分類・整理したりすることを促進したいときに、特に、【図1】のような教師の要望に実際の機能で実現できていないと思われる。

図1
  • キーワードを入力したカード(以下、カード)を置いていったときに、カード同士が重なるなど煩雑になる。
  • マッピングを行っている途中の状態(履歴)を保存するのが大変。また、途中段階のものと、完成したものを比較しにくい。
  • 循環接続線(親子だけでなく、子と子の接続)が引けない。
  • 縦書きに対応していない。
  • カードごとに文字サイズを変更できない。
  • カードにテキストデータしか入力できない。
  • カードを自動的に整列ができるソフトもあるが、上下左右4方向にカードを自動整列ができない。

そこで、これまで紙媒体やマッピングソフト・アプリ上でできなかったこと、やりにくかったことの実現と、実際の学習内容を想定してさらにできたら良いことの実現をめざして検討を行った。その結果、【図2】のようなメリットを「マッピング機能」に盛り込み開発した。

図2
SKYMENU Class 2016「マッピング機能」のポイント
テーマから連想されるキーワードを、カードでつなげていくことで児童生徒の思考を可視化できます。ドラッグ&ドロップで直感的に操作できるので、カードを追加・削除したり線をつなぎ直したりを何度も繰り返しながら、考えを深められます。

関連する語句やイラストをつなげ、自分の考えを可視化

開発した「マッピング機能」が、実際の授業でどのように活用できるのかを検証するため、研究協力者である岩﨑 有朋 鳥取県岩美町立岩美中学校教諭による授業を実施した。

中学校3年理科の「地球と宇宙」の授業である(Webサイト「学校とICT」 2016年6月掲載)。天体の学習は、地軸の傾き、日周運動、年周運動などが複雑に絡み合った複合的な現象を理解する必要があるので、一度に学習することは難しい。したがって、教科書の構成も、身近な太陽の動きの観察からはじまり、少しずつ関連する運動を扱いながら、最終的には太陽や月以外の天体の動き、それに伴う天体現象まで推測する力を求めている。

日周運動を1つのテーマとして、それに関する語句やイラストをつなげていき、自分の頭の中にある考えを可視化させるために「マッピング機能」を活用した。特に、天体のまとめの段階で、日周運動や年周運動といった大きなまとめごとに「マッピング機能」を使い、自分の考えを人に伝えるためのツールの一つとして活用した。

「マッピング機能」を使って根拠の部分を説明するのだが、タブレット端末ということもあり、生徒たちはピンチイン、ピンチアウト(拡大や縮小の動作)をうまく使い、全体の情報のつながりを見せたり、一部を拡大して詳細を説明したり、自分のイメージでまとめているので、自分のしたいように説明できているようであった。

特に紙媒体でマッピングを行う場合、せっかく書いた言葉を消して、改めて書き直すことは行いにくく、新しい言葉のつながりを見つけた場合も新たに言葉と言葉を結ぶ線を加えていくと、どんどん煩雑になりわかりにくくなってしまう。その結果、児童生徒の思考がそこで完結してしまう場合がある。その点、タブレット端末で「マッピング機能」を活用すれば、何度もつなぎ直したり、[自動整列]機能で整理したり、[UNDO]機能(1つ前に戻す機能)をうまく使ったりしながら、自分の考えを可視化できる。

40人のマッピングのどこに注目し、どのように授業で生かすか

岩﨑教諭は、『SKYMENU Class』の[学習者機画面の一覧表示]機能や机間指導も含め、生徒の学習内容や進捗の把握をしっかり行っていたが、「40人近くのリアルタイムな書き込みのどこに注目して、それを瞬時に判断し、授業内でどのように生かすのかが難しい」と授業後にコメントしている。

教師がしっかり視点を持って生徒たちの画面を見ていないと、目の前の児童生徒の見とりがおろそかになってしまうこともある。このような留意点を集約しながら、今後、「マッピング機能」の活用のバリエーションについて整理していきたいと考えている。同時に、教師や児童生徒の声にも耳を傾けつつ、さらに使いやすい機能を追究していく必要があると考える。

参考文献
・塚田泰彦(2005)国語教室のマッピング,教育出版,p.9
・三宅正太郎・栢野彰秀(2012)公立小学校における学習者の学びツール(イメージマップ)の指導について,第6回日本科学教育学会研究会,科教研報Vo.26 No.6,p.2-5
・中川一史・佐藤幸江・村井万寿夫・小林祐紀(2015)小学校国語科教科書におけるマッピングの活用意図の整理,日本教育メディア学会,第22回日本教育メディア学会年次大会発表論文集,D2-4

(2016年07月掲載)