授業でのICT活用

道徳科におけるプログラミング的思考力の育成

道徳科の「問題解決的な学習」には、プログラミング的思考力を育成できる可能性があります。道徳的な問題を解決する過程に下のような手順が含まれているからです。

順次
問題を解決するためにはどのようなことが必要で、どのような順序で行えばよいか。
分岐
問題の解決策を「もし行ったらどうなるか」「もし行わなかったらどうなるか」
反復
問題の関係者が納得するまで解決策を繰り返す

今回は、これらの手順が可視化されるフローチャートを活用し、道徳科の目標に加えプログラミング的思考力の育成を目指した実践を紹介します。

教材のあらすじ

登場人物のナナミのクラスで休日に遊園地に行くことになりました。しかし、その日に用事があったナナミは参加できないことをSNS上で伝えます。その後「みんなヒマでいいね」と投稿を続けます。

それを受けて他のメンバーはナナミの陰口を言い始めます。そして、主人公のコジマにも「コジマもそう思うよね?」と同調するよう求めます。この状況を把握した上で「あなたがコジマ君だったら何ができるか」を考え問題解決を目指します。

本時までの学習

フローチャートに自分の考えをしっかりと表現できるように2時間の小単元を組みました。なお、本実践の前に総合的な学習の時間で「ネットトラブル」について探究を始めています。探究の序盤で「理想的なインターネットの使い方」を学級全体で話し合い「欲を出し過ぎないで、自制する」と暫定的にまとめています。これを本実践におけるフローチャートのゴールと関連付けました。(写真2)

第1時の主な学習活動は以下の通りです。

  1. 1. SNSを利用するよさを確認する。
  2. 2. 探究するテーマを立てる。 インターネットでよりよい人間関係をつくるときに大切な心とは?
  3. 3. 映像教材から道徳的な問題点を明らかにする。
  4. 4. 有効だと考えられる解決策を出し合う。
  5. 5. SKYMENU Classのフローチャート作成機能を活用し、自分の考えをまとめる。

活動5でフローチャートを作成する前に「欲を出し過ぎないで、自制する」というゴールを再度確認しました。解決策が周囲に与える影響を考えるだけではなく、問題をきちんと解決できるかを確かめさせるためです。

本時の学習

①フローチャートの作成

前時に引き続きフローチャートを作成し問題解決を目指しました。

コジマ君の立場になり「欲を出し過ぎないで、自制する」というゴールに到達するためにはどうしたらよいかを考えます。(写真1)

写真2のフローチャートを作成した子どもは、ナナミと「直接話す」ことで「ナナミさんをなぐさめる」ことに繋がり、その後、いくつかの手順を経てゴールに到達すると考えました(順次)。また「もし直接話したらどうなるか」や「もし直接話さなかったらどうなるか」(分岐)などの条件も考えています。フローチャートを使わなくても同様の学習活動を行うことはできます。しかし「順次」「分岐」「反復」の様子が可視化されたり、自分の考えがゴールに到達可能かを判断しやすかったりする点はフローチャートの強みといえます。実際に、最初に考えた解決策ではゴールに到達できないことに気付き、自ら別の解決策を考える子どもの姿が見られました。

また、デジタルのフローチャートであるため、カードの取り出しや、チャートの修正が簡単にできます。

②異なる価値観をもつ友達との対話

フローチャートの完成後は、異なる価値観をもつ友達と意見を交流しました。(写真3)フローチャートで思考が可視化されるよさを一層生かすために次の2点を工夫しました。

1点目は「フローチャート作成上のルールの設定」です。カードの形を「開始と終了は楕円」、「分岐はひし形」、「その他は長方形」と統一しました。そのことでカードの意味が明確になり、自分と友達の考えを比較しやすくなります。さらに解決策毎にカードの色を指定することで、自分と異なる考えをもつ子が一目で分かるようにしました(「直接話す」は桃色など)。

2点目は「情報の掲示板の設置」です。PCや電子黒板の画面にクラスメート全員分の意見が集約されるように設定しました。限られた時間の中で学級全員との交流は難しいと思います。自らの考えを多面的・多角的に検討するために交流したい相手を効率的に決めることができます。

③学習の振り返り

フローチャートを使った交流後に、「インターネットでよりよい人間関係をつくるときに大切な心とは?」という小単元のテーマに戻りました。

子ども達からは「誤解を与えないために送った理由を伝える」、「本音を理解しようとする」、「親しい仲にも礼儀ありだから『みんな』を大切にする」などの意見が出されました。相手の顔が見えにくいというインターネットの特性に配慮した上で、よりよい人間関係を築くときに大切な心を考えることができました。

A児は下の通りに考えを変化させました。

【学習前】
・分かりにくい言葉は使わない。(ちがう意味にとらえてしまう言葉など) ・ことわる心
【学習後】
自分や集団だけではなくそこにいる全員(仲間)のことを大切にする心。送った理由などを書いて、なるべく誤解をうまないようにするが、誤解がおきた場合は、自分や集団だけではなくそこにいる全員のことを大切(仲間)にする。

学習前には自分自身が気を付ける点を書いているのに対し、学習後には他者にまで思考の範囲を広げることができています。

フローチャートの作成時の留意点

プログラミング的思考力とは「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きを組み合わせて、どのように改善していけば実現に近づくのかといったことを論理的に考えていく力」(平成28年6月『議論のまとめ』、下線部筆者)と示されています。

ですから、解決策が周囲に与える影響を考えるだけでは不十分です。今回の場合でいうと「欲を出し過ぎないで、自制する」というゴールに向けた論理的な思考が欠かせません。そのため、フローチャートを作成する際に、ゴールを確認するなどの手立てによりチャートを作成する「意図」を明確にさせる必要があります。

本時の指導案

【本時のねらい】
同調圧力に苦しむコジマ君のよりよい行動を考え、相互の信頼の下に協力し合える人間関係を築いていこうとする態度を養う。
【プログラミング教育の視点】
フローチャートを活用し「順次」や「分岐」の手順を含み問題の解決策を考えさせる。その後、一人一人の可視化された思考を比較、検討し、個々の友情に対する価値を「一般化」させる。
● 主な学習活動 ○ 支援・留意点
☆教科等の評価(評価方法)
★ プログラミング教育の視点に関わる評価(評価方法)
導入

● 前時の学習を振り返り、フローチャートの続きを作成する。

○ 教材の道徳的な問題点を確認し、フローチャートを作成する目的を想起させる。

あなたがコジマ君だったら何ができるかを考え、フローチャートにまとめよう

★ フローチャートを活用し「順次」や「分岐」の手順を行い、問題の解決策を考えることができたか。(フローチャート)

展開

● 異なる価値観をもつ友達とフローチャートをもとに意見交換を行う。

・ グループの友達から仲間外れにされてしまうかもしれないけれど、ナナミの悪口は言わない。ナナミとの友情が壊れてしまうのは嫌だから。

・ ナナミに「みんなヒマでいいね」と言った理由を聞き、本心を理解する。みんなを傷付けるための言葉ではないかもしれないからしっかりと話し合う。

● 探究テーマに対する考えを学級で話し合いまとめる。

〇 自分達が設定した「インターネットの理想的な活用法」に近づくことができる解決策を考えさせる。ことができているか。

〇 意見交換後に、教師や児童が価値観の変化を捉えられるようフローチャートに加筆修正させる。

☆ 自分がコジマ君の立場だったら、どのように問題を解決できるかを、クラスメートの意見を基に多面的・多角的に考えることができているか。

インターネットでよりよい人間関係をつくるときに大切な心とは?

・ その人の立場になって優しく接する心

・ 仲間を信じる心

・ 傷付けないように注意する心

★ 友情に対する価値を「一般化」させることができたか。(ノート、発言)

まとめ

● 学習を振り返り、自己の生き方をまとめる。

・ 直接会って友達と話していないときでも自分の言葉で友達が傷付かないかを考えて仲良く関わっていきたい。

☆ 友達と相互の信頼の下に協力し合える人間関係を築いていこうとする気持ちがもてたか。(ノート)

(2019年5月掲載)