授業でのICT活用

【教育情報化最前線】静岡県藤枝市立藤岡小学校 これまでの校内研修を大切にし、その中でICTが有効に働く場面を 教師同士の学び合いや日常的な授業研究が活発に

藤枝市の学校ICT環境整備事業のモデル校である藤枝市立藤岡小学校では、平成29年7月に児童用タブレット端末36台および学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』をはじめ、電子黒板や書画カメラなどのICT機器が導入されました。同年9月から始まった同校の実践を通じて、市の教育ICT化整備計画が前倒しされるきっかけになるなど、実証研究の成果が非常に高く評価されています。同校において短期間のうちにICTの活用が進んだ背景等について、近藤 照子 校長と吉田 満 教頭にお話を伺いました。

藤枝市立藤岡小学校 近藤 照子 校長、吉田 満 教頭

管理職自らが推進役となってICT活用に対する共通理解を図る

本校は8学級、児童数216名の小規模校ながら、平成29年度に藤枝市の学校ICT環境整備事業のモデル校の指定を受け、同年9月からの4か月間、タブレット端末をはじめとするICTを活用した授業に積極的に取り組んできました。

本校においてICT活用が広がった背景の一つには、ICT環境整備の検討段階から市の教育政策課の担当者が足しげく通ってくださり、連携できたことが大きな要因だったと感じています。特に、私どもは授業で使いたいときにすぐに使用できる環境を用意することが、もっとも大切だと考えました。ですので、市の担当者とはそのことを重点的に相談し、ときには私どもから提案もしました。

タブレット端末などが導入されると「ICTを活用すること」に目が向きがちですが、目的は活用することではありません。本校において、これまで研究してきた研修方針を大切にして授業改善に取り組む。その上で、一つの手段としてICTが有効に働く場面があるはずという捉え方をしています。ですから、実際にタブレット端末が導入される前から、私ども管理職自ら推進役となって、先生方のICT活用に対する共通理解を図ることから始めました。

教師は、誰しも良い授業がしたいという思いがある

まず、最初に使ってもらいたいと考えたのは[投影]機能です。つまり、書画カメラのように教材を拡大提示することでした。ICT活用といっても、いくつもの機能を組み合わせた高度な活用をめざすのではなく、写真を撮ったり、資料を配付したりといったシンプルな使い方をする。実際に、それを実践しただけでも子どもたちの集中力が高まっていたり、時間が節約できたりという効果が実感できました。教師には、良い授業がしたいという思いがあります。授業のなかでICTが有効に働くことが経験できれば、自然と「もっと活用できないか」と考えて工夫していきます。できる限り初めの敷居を低くする。活用の促進のポイントはそれに尽きるのではないでしょうか。

例えば、ものさしの使い方を説明する際、以前なら視覚化するために模造紙などに大きくものさしの絵を描いて、ゼロをどこにそろえるかを示していました。しかし、それでは実際に子どもの手元にある現物と模造紙で示した絵、そして教科書に掲載されている写真がそれぞれ違うため、混乱してしまう子どももいます。しかし、[カメラ]で現物の写真を撮って[投影]で電子黒板に映し、[マーキング]で線を描いて示せば分かりやすくなります。このように具体で示せることで、子どもたちの集中力が目に見えて高まります。

『SKYMENU Class』はこうした一連の機能が、非常にスムーズに操作できるように作られています。

教師の日常的な意見交流や授業研究が活発に

タブレット端末の保管庫を職員室に設置したことで、自然と教師の授業研究の時間が増えているこうした活用を積み重ねていくうちに、教師側にも変化がありました。例えば、算数の教材の一部分を切り取って、「この図形だけを提示したいんだけど、どうすればいいのか」と、ベテランの教師が若い教師に質問している場面です。そのとき、若い教師が操作方法を教えているだけではなく、「なぜ、この図形だけを示したいのか」という話になりました。「この考え方をするために、この図形で考えさせたいけれど、教材には応用の図形も掲載されているので、最初はこの図形だけを示した方がいい」と、今度はベテランの教師が教材のアドバイスをしていたのです。タブレット端末を介することで、以前にも増して教師間の学び合いが活発に行われるようになり、日常的な教材研究などの時間がとても増えています。

ちなみに、本校ではタブレット端末の保管庫を職員室に設置しています。幸い、教育用ネットワークの無線LANの電波が職員室にも届くので、いつでもタブレット端末を使いながら話し合える環境があることも大きいと言えます。

本校は、小規模校で教職員が少ないこともあり、簡単な研修なら職員室の中の共同スペースで行っています。ICTに長けている教職員も限られていることから、みんなで悩みながら研修を進めてきたことで、結果としてOJTによる授業研究が進んだのだと感じています。

子どもたちの自己肯定感や学習意欲が大きく向上

担当した資料から気づいたことを協働でまとめた後、班に持ち帰って資料を指し示しながら発表している様子さらに発展的な実践例として、社会科でジグソー法※を参考にした学習にタブレット端末を活用しました。子ども1人が1台の端末を使い、6人1組の班に6種類の資料を配付し、「戦争のときの生活のようす」について学びます。配付された資料から1人1種類を担当して、まずは同じ資料を担当している子ども同士が集まって、資料から読み取れることをまとめました。このとき[画面合体]で大きなワークスペースを共有し、みんなの意見を[発表ノート]に書き込みます。その後[画面合体]を解除すると、協働でまとめた内容がすべて自分のタブレット端末に残ります。それを自分の班に持ち帰って調べてきたことを順に発表しました。

ジグソー法の特長として、担当した資料について責任を持つことで授業への参加意欲が増すことや、他者の意見を取り入れて多様な考え方ができるといったことが挙げられます。さらに、タブレット端末を活用することで、それまでは発表が苦手だった子も積極的に発表している姿が見て取れました。みんなでまとめてきた[発表ノート]の内容を指し示すことで、言葉だけでは上手く表現できなかった子にも発表しやすかったのだと思います。もちろん、言葉でもきちんと伝えられるようになることが大切ですが、それまでは引っ込み思案で発表が苦手だった子が、この経験によって自己肯定感が高まり、学習意欲が向上したことは大きな効果だったと思いました。

※ジグソー法では、1つのテーマに対する複数の資料について、まず資料ごと分かれて学んだ後、その結果をほかの学習者と紹介し合います。ピースを集めてジグソーパズルを解くように、各資料の学びの結果を持ち寄って全体像を浮かび上がらせていく学習方法です。

「視覚化」「焦点化」「共有化」が、学習内容の理解を深める手立てに

合唱の練習をする際の口の動きを、板書で説明した上で、お手本をカメラで撮影しながら拡大提示している場面そのほかにも、体育の実技や国語の発表の様子を動画で撮影して、それを見ながら子ども同士が教え合ったりするなど、さまざまな工夫を加えながら活用を広げてきました。電子黒板などは5年生以上の教室を対象に整備されましたが、本校ではタブレット端末と以前からある大型テレビを使って教材を提示するなど、1年生から活用しています。

活用を始めて3か月が経った学校評価では、ICTを活用した授業が「楽しかった」、そして「分かりやすかった」という回答が、1年生から6年生までの全学年を通じて9割を超す結果となりました。「視覚化」「焦点化」「共有化」されることが、学習内容の理解を深める手立てになっているのだと思います。

特に、発達障がいなどがある特別な支援を要する子どもたちへの「視覚支援」には非常に役立ちます。それは、子どもたちの学習に向かう姿勢や集中力に顕著に表れています。

もちろん、まだ導入されたばかりなので、子どもたちにとっても興味や関心が湧きやすい時期だということもあると思います。今後は、総合的な学習の時間なども活用しながら、情報教育の計画的で系統的なカリキュラムを整備して継続的に取り組んでいくこと。また、大学の教授などの有識者を外部講師として招聘し、本校の研修の方向性を客観的かつ俯瞰的に指導してもらえないかとも考えています。これからも市と相談していきながら、しっかりと連携して取り組んでいきたいと思います。

(2018年2月取材 / 2018年5月掲載)