授業でのICT活用

ICT機器の整備と活用を段階的に推進 タブレット端末を中心に教室のICT環境を設計

千葉県市原市は、平成28年に「市原市教育の情報化推進事業計画」を策定し、計画に基づいて情報化を段階的に進めています。タブレット端末を中心に教室のICT環境を設計され、大型テレビ、ワイヤレスディスプレイアダプタ、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』で教室のICT環境を設計されています。同市の情報化を推進されている、市原市教育委員会 学校教育部 教育センターの生田 勲 指導主事にお話を伺いました。

センターサーバ化で、セキュリティの向上と運用管理の効率化を実現

千葉県の中央部に位置する市原市は、人口28万人を抱える都市です。管内には、63校の小中学校(小学校41校、中学校22校)があり、在籍する児童生徒は20,000人を超えます。

平成25年までに、体育館を含めたほぼすべての教室に無線LANの敷設が完了。教育委員会と学校は光回線で結び、通信を高速化しました。それに伴い、各学校に配置していたサーバを一箇所に集約する「センターサーバ化」を行いました。サーバ台数を削減し、一箇所でデータを集中管理することでセキュリティを向上させ、運用管理の効率化を図っています。

さらにActive Directoryを利用し、教育センターをはじめ、市内のどの学校の端末でも教員は自分のユーザID、パスワードでログオンして利用できる環境を実現しています。

小学校の整備は完了。中学校には授業用タブレットを配置

現在、当市の教育の情報化は、平成28年に策定した「市原市教育の情報化推進事業計画」に基づき、段階的にICT環境の整備と活用の推進を行っています。

小学校へのタブレット端末整備は、平成29年夏に完了し、コンピュータ教室に学習機として整備しました。クレードルを介してマウス、キーボードに接続するので、ノートPCの様にも利用できます。クレードルから取り外せば、校内のさまざまな教室に持ち出して活用できます。

小学校の整備と同時に中学校には、学校規模に応じて各校に3~10台の「授業用タブレット端末」を整備しました。ですから、現時点ですべての小中学校で、タブレット端末を活用できる環境が整っています。授業用タブレット端末には、英語と数学のデジタル教科書を導入しているので、大型テレビに投影してわかりやすい授業の実現に役立ててもらえるものと考えています。平成30年の整備では、コンピュータ教室に整備してあるノートPCをタブレット端末で整備する予定です。基本的には、小学校と同じ内容での整備となりますが、コンピュータそのものの学習や表計算等を行いたいという先生方の要望を踏まえ、各端末に20型程度のディスプレイも設置する予定です。

タブレット端末を中心に教室のICT環境を設計

当市の整備では、タブレット端末を教室のICT環境の中心に位置づけています。具体的には、タブレット端末と学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』、大型テレビ、ワイヤレスディスプレイアダプタで設計しています。

タブレットを中心に教室のICT環境を設計

『SKYMENU Class』は、教員がタブレット端末を活用するシーンで欠かせないソフトウェアです。当市では、ほぼすべての教室に大型テレビが設置されているので、例えば、ノートやプリントを[カメラ]で撮影すれば、実物投影機のように大型テレビにノートを映し出して紹介できます。さらに、教材のある特定の部分に焦点化したいときは、[マーキング]で電子黒板のように書き込んで説明することもできます。これまで実物投影機や電子黒板で実現していたことが、タブレット端末1台で実現できるので、実物投影機や電子黒板などのハードウェアの整備は行わない予定です。デジタルカメラやビデオカメラなど、これまで学校で利用されていたハードウェアも今後は不要になると考えています。

多機能で高価なハードウェア製品の導入は、大きな予算が必要になります。そして多機能ゆえに故障、修理の頻度が増え、ランニングコストがかかります。一方、ソフトウェアは、不具合や環境の変化があっても、ソフトウェアアップデートで比較的容易に対応できますから、ハードウェアほど高いランニングコストがかかりません。このような考えをベースにして、単機能で安価、故障が少ない大型テレビと多彩な機能を持つ『SKYMENU Class』を組み合わせて環境を構築しています。

効率的な授業、わかりやすい教材提示に生かす

『SKYMENU Class』を導入した理由はそれだけではありません。『SKYMENU Class』は、多くの先生方にとってICT活用のきっかけになる[カメラ]に関する機能が充実しています。この[カメラ]と[比較表示]の機能を組み合わせることで、さまざまな教科や単元で、効率的かつわかりやすい教材提示が行えると考えています。

具体的なシーンとしては、まず教員がタブレット端末を持って机間指導をしながら、紹介したい児童生徒のノートを[カメラ]で撮影します。撮影したノートの写真を複数枚選択して、ボタンを1つ押すだけで並べて表示できます。表示された写真は、タップするだけで拡大表示できますから、小さなホワイトボードに児童生徒が考えを書き写して発表していたような活動よりも見やすく効率的に行えます。比較表示した画像は、並べ替えることもできますから、考えを分類したり、比較したりして学習内容に迫ることもできます。

つまり、タブレット端末、『SKYMENU Class』を使うことで授業を効率化し、効率化によって生まれた時間で児童生徒の考えを深めさせたり、交流させたりできるようになります。学習活動がより充実すると考えています。

導入して終わりではなく、活用を定着させるまでが整備

機器を導入して終わりではなく、導入した機器の活用を定着させるまでが整備です。ですから、整備後はもちろん、整備前から周知や研修に力を入れてきました。具体的には、平成28年度に教育センターにWindows OSのタブレット端末を150台整備し、これを各校に2台から3台ずつ配付しました。タブレット端末の基本的な使い方やワイヤレスディスプレイアダプタでタブレット端末画面を大型テレビに投影するといった、授業を行う上で最低限必要な操作に慣れること、そして先生方が主に授業で活用する『SKYMENU Class』などのソフトウェアに触れてもらうことが目的でした。

さらに、タブレット端末や『SKYMENU Class』などを活用した実践事例を集めた「タブレット端末活用事例集」の作成を企画しました。一番良い研修の題材になりますから、できるだけ多くの先生方にご協力いただき、平成28度中に50件の事例を集めました。事例集は冊子化するとともにイントラネット上でデータを公開しています。この取り組みは4年間継続し、最終的に200事例を集める予定です。先生方が授業のアイデアを練るときに、ヒントの一つとして活用してほしいと思っています。

後任の担当者も円滑に推進できるように

平成28年に整備した150台のタブレット端末は、現在、学校への貸出用端末として教育センターで管理しています。先生方から希望があれば、必要な台数を学校に貸出しています。

センターサーバ環境のため、端末の設定を変更することなくそのまま学校で利用できるので、便利に活用いただいています。しかし、貸出を終えて学校から返却された端末には、さまざまなデータが保存されたままになっていたり、設定が変わっていたりする場合があり、次の貸出までに元の状態に戻す作業が必要です。こういった運用管理を効率化し、誰でも簡単にできるようにすることが活用推進には欠かせないと考えています。特に、私たち公務員は異動がつきものですから、後任の担当者が戸惑うことなく、継続して活用推進に取り組める環境も整えておきたいと考えています。

「公教育として何を学ばせるか」ということ
を視野に入れてICT環境を検討しています

Windows OS を選択した理由

当市がWindows OSのタブレット端末を導入している大きな理由の一つには、このような「運用管理のしやすさ」があります。学校や自治体で整備する機器は長期間利用しますから、その間サポートを確実に受けられ、特定の個人ではなく、より多くの人や業者にノウハウの蓄積がある製品が望ましいと考えています。特に、近年はOSのアップデートの頻度が増していますから、個人が開発したソフトウェアやアプリでは対応が間に合わなかったり、開発が止まったりして、使えなくなることも考えられます。それでは、先生方の毎日の授業に支障をきたしてしまいます。また、学校は複数の無線LANや多様なICT機器が混在する空間です。ですから、主に個人や家庭での利用が想定されているOS、端末、周辺機器などではなく、多くの企業や団体で利用され、安定して稼動する機器を採用しています。その結果、当市では大型テレビへの画面の投影はテンポ良く行えますし、インターネット上の動画教材を複数の教室から児童生徒が再生しても遅延することなく安定して視聴できる環境が実現できています。

もう一つの大きな理由は、公教育として「社会に開かれた学び、実社会とつながる学び」を重視したいからです。児童生徒が将来、仕事に就いたとき、仕事で利用する端末の多くはWindows OSであり、使用するソフトウェアの多くはWordやExcelです。学校での学びから、実社会とのつながりを実感できるようなICT環境にしておくべきです。また、情報の科学的な部分への理解は、今後ますます重要になりますから、コンピュータの裏側を見せやすいWindows OSは教育という目的により適していると考えます。私たちは「公教育として何を学ばせるか」ということを視野に入れてICT環境を検討しています。

整備にかかわるさまざまな立場の人と協力体制をつくる

学校に本当に適したICT環境をつくるためには、学校の声を聞かなければわかりません。先生方の声を集めるために、5年前から毎年、市内の全教職員1,400名を対象にアンケートを実施しています。アンケートでは、整備されたICT機器やソフトウェアの活用度を調査しています。ExcelやSharePointを利用して集計作業の効率化を図っていますが、それでも手間はかかりますので、教育委員会内のさまざまな方の協力を得て集計、分析を行っています。集めた学校現場の声は、教育委員会内で共有し、学校教育にかかわるさまざまな専門分野の方から意見を集め、整備内容に反映させています。

整備担当者が周囲の関係者をうまく巻き込みながら、知恵や力を借りて進めていく。そのような協力体制ができれば、整備から活用へとうまく進み出すと感じています。この体制は、教育委員会や学校にとどまらず、外部の業者を含めたすべての方々の協力で成り立つのだと思います。皆さんから知恵や力をいただき、うまく舵取りすることで、大きな推進力に変えていく。それが整備担当者に求められる役割だと考えています。

(2017年10月取材 / 2018年1月掲載)