授業でのICT活用

視覚支援と効率化に効果 タブレット活用で複式指導の充実へ

複式指導を中心に1人1台の活用

川口校長:志布志市立潤ケ野小学校 川口 徳久 校長 大野 智美 教諭本校は志布志市の東部の山地に位置する小規模校です。全校児童24名で、1年、2年が単式学級、3、4年と5、6年が複式学級で編成されています。大型テレビや実物投影機が、各学年に1台ずつあり、複式の教室にはそれぞれ2台ずつ常設しています。

タブレット端末は、平成28年度に児童1人1台となるように21台(教員用3台含む)が整備されました。今年度当初、特認校制度を利用して通学する児童が想定以上に多かったためタブレット端末の台数が不足していましたが、市教育委員会の配慮で解消されました。

大野教諭:【図1】 前時の板書写真を提示し、ポイントとなる点を振り返るタブレット端末は、主に複式学級を中心に活用しています。複式指導では1人の教員が2つの学年の授業を行き来するため、時間管理が大切です。ですから、効率化と視覚支援を目的にICTを活用しています。例えば、3年生と4年生の授業では、それぞれの授業の導入の時間をずらして行う必要があるのですが、これを短時間で効率よく行うために、あらかじめ[カメラ]で撮影しておいた前時の板書の写真を大型テレビに[投影]して前時の振り返りをしています【図1】。板書時間を短縮できるので、もう1つの学年に素早くわたって直接指導を行えます。

これまでは、実物投影機を利用していたのですが、前時の板書やノートなど複数の情報を保存できないことを不便に感じていました。『SKYMENU Class』の[カメラ]で撮影すれば、データが[教材・作品]に保存されますから、ノートや黒板の写真が蓄積され、いつでも振り返りに使えるようになりました。口頭や板書でもう一度説明しなくても、視覚的に分かりやすく、短時間で説明できるのがメリットです。

写真のデータを選ぶだけで複数の画像を並べて表示できる[比較表示]も便利なのでよく利用しています。考えを比較することで共通点や差異点が明確になりますし、その上に[マーキング]で書き込めますから、学習のポイントとなる部分を導き出す際に役立ちます。

便利な機能を見つけて使いこなす児童

大野教諭:[カメラ]は児童も積極的に利用していて、理科の観察や体育のハードル走、鉄棒運動で利用しています。特に体育は、指導前後の動画を[動画比較]で見比べることで、自分の良くなった箇所を確かめることや向上の程度を実感させることに役立っています。児童がタブレット端末や『SKYMENU Class』の操作を覚えるのは早く、操作説明はほとんどしていません。[カメラ]には「文字をはっきり表示する」や「明るさ調整」などの機能があるのですが、児童は便利な機能を自分たちで見つけて上手に使っています。

操作説明に時間がかからないぶん、その時間で「正面から撮影したほうがいい」「余計な情報が入らないように撮影する」「何を伝えたいかを考え、ポイントを絞って撮影する」といった情報活用について指導しています。

児童に任せるつもりで進める

大野教諭:3、4年生の授業では、間接指導時に、1人の児童にタブレット端末を渡し、ほかの児童がまとめたノートを[カメラ]で撮影させています。そして、その写真を大型テレビに映しながら、自分たちで順に発表させ、さらにひととおり発表したら、[比較表示]でみんなの考え方を分類するところまでを児童主体で進めさせています【図2】【図3】。以前は私が[カメラ]でノートを撮影して回っていたのですが、思い切って児童に任せることで、授業時間に余裕が生まれています。「タブレット端末は、授業を時間内に収めることに役立つ」という実感があるから使い続けています。

【図2】教員ユーザでログオンした端末でノートを撮影 【図3】1人ひとり、自分のノートを投影して発表

川口校長:複式指導では、教員が自分で進めるという姿勢ではなく、「児童に任せられる部分は任せる」という姿勢が大切です。ですから、大野先生のように、児童に積極的にタブレット端末を渡し、任せるつもりで進めていいと考えています。させてみることで児童も私たちも発見することがたくさんあると思います。

蓄積された情報をどう活用するか

大野教諭:導入から1年経ち、写真などさまざまな情報が蓄積されてきました。これらの整理と有効活用が今後の課題です。板書の写真は、自身の振り返りにも有効ですから、生かしたいと思っています。

川口校長:タブレット端末は、授業だけでなく教材準備の手間の削減やペーパーレスの職員会議、校務における情報共有などさまざまに活用できるツールです。昨今話題になっている教員の業務改善にも役立てたいと考えています。

算数指導とタブレット活用を絡め、校内のICT活用研究を推進

数字の組み合わせを、タブレット端末上で何度も試行

梶山校長:志布志市立潤ケ野小学校 川口 徳久 校長 大野 智美 教諭志布志市のモデル校の一つである本校には、児童用タブレット端末が34台整備されています。

研究テーマを「意欲的に学び合い、思考力・表現力を発揮させる算数科指導方の工夫~算数科における効果的なICT活用を通して~」に定め、45分の授業の中で、児童あるいは教員が実物投影機、大型テレビ、タブレット端末などの教具の効果的な活用について研究しています。

松下教諭:【図1】 前時の板書写真を提示し、ポイントとなる点を振り返る6年算数「ならべ方と組み合わせ方」の単元で児童1人1台のタブレット端末と『SKYMENU Class』を使いました。「4つの数字から3桁の整数をつくる」という学習課題を与え、落ちや重なりがなくすべての整数を求められる方法を考えさせました。前時に学習した樹形図を使えば考えやすいのですが、理解が進んでいない児童もいるので、タブレット端末とデジタル教材も準備し、問題解決のために必要な手段を児童自身が選んで取り組めるようにしました。デジタル教材は、カードを並べて何度も試行できる「スーパーホワイトボード(作成:熊本市教育センター)」を利用しました【図1】。

『SKYMENU Class』は、さまざまなソフトと組み合わせても使える

松下教諭:インターネット上で公開されているデジタル教材を探して活用することが多いので、さまざまなソフトウェアと組み合わせて使える『SKYMENU Class』は重宝しています。よく利用するのは、[学習者機画面の一覧表示]機能です。児童の進捗状況を把握したり、発表時に発表者の画面をタップして素早く大型テレビに投影したりしています【図2】。伝えたい箇所があれば、[マーキング]で強調しながら発表できるので、聞き手も焦点化されて分かりやすいと思います。ノートに書いてまとめた児童も、[カメラ]でノートを撮影すれば発表資料になりますから、これまで使っていた実物投影機よりも円滑に発表を進められています【図3】。

【図2】 教員ユーザでログオンした端末でノートを撮影 【図3】 1人ひとり、自分のノートを投影して発表

梶山校長:タブレット端末などのICTは、児童が自力解決をする手段として有効です。

松下先生の実践は、考えを導き出したり、考えを確かめたりするために有効に活用できていました。また、松下先生は、全員がタブレット端末を使って解くのではなく、「僕は、ノートでやってみよう」「私は、タブレット端末でやってみよう」と自力解決のための手段を児童自身が選べるようにしていました。ICTを含め、最適な手段を考えて選択する力は、これからの子どもたちに求められる力の一つですから、このような活用を校内で広めたいと考えています。

図形領域で学力向上に効果

松下教諭:これまでの取り組みから算数では、主に図形領域で学力向上に効果が出ています。具体的には、立体の体積の単元でタブレット端末とデジタル教材を活用した際に、普段は平均点が80点ほどの学級が、92点まで上昇しました。

算数だけでなく他教科でも活用しています。理科のふりこの単元では、児童が[カメラ]を使って、条件の異なるふりこの実験を動画で撮影しました。[動画比較]を使えば、異なる条件で撮影した動画を重ねて再生させられるので、ふりこのきまりを見つけられました。タブレット端末を使うことで、児童は楽しく、主体的に学習活動に取り組んでいます。

失敗事例や課題も発信していく

梶山校長:松下先生のようなICT活用を、校内でどのように展開していくのか。それが本校の課題です。算数という全教員共通の軸で授業づくり、ICT活用を考えていきたいと思っています。

そのためには、校内研修の充実が必要ですから、まずは校内で先生同士がお互いの算数の授業を参観する取り組みを始めています。タブレット端末や『SKYMENU Class』の効果的な活用場面を見ること、そして児童が意欲的に授業に参加している姿を見ることが先生方に良い刺激になり、ICT活用に向かうきっかけになると考えています。

志布志市のモデル校として、私たちにはさまざまな活用事例を市内に発信する役割があります。研究発表などを通じて、好事例から失敗事例、そして課題まで、本校の足跡を丁寧にお見せし、先生方の明日の授業に役立つ情報をお伝えしたいと思います。

(2017年9月取材 / 2017年12月掲載)