授業でのICT活用

教育情報化最前線:埼玉県春日部市教育委員会 「ICT を活用した協働学習・学び合い」研修会をスタート 知識構成型ジグソー法とICTで学び合いの充実へ

鷲林 潤壱 春日部市教育委員会 社会教育部社会教育課 生涯学習推進担当主査・指導主事春日部市視聴覚センターは、市民や教職員を対象にICT利活用にかかわる講座や研修を行われています。平成27年度にはタブレット端末21台とタブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入され、市民や教職員向けの研修講座で活用されています。

同市の教育情報化の取り組みや教員のICT活用研修について、春日部市視聴覚センターの鷲林 潤壱 主査・指導主事にお話しいただきました。


『SKYMENU Pro Ver.5』から継続して採用

春日部市は埼玉県東部に位置する、人口約24万人の都市です。平成17年に旧春日部市と旧庄和町が合併し現在の形になりました。管内には37校の小中学校(小学校24校、中学校13校)があります。

春日部市視聴覚センターは、生涯学習の機関として市民に向けてICTの利活用に関する講座などを行うとともに、教職員へのICT活用研修も行っています。教職員向けの研修は年間17講座行っており、デジタルカメラの活用といった基本的なICT機器の活用方法から、タブレット端末や電子黒板、デジタル教科書の活用に関する講座も開設しています。

また、市内小中学校のICT環境整備の役割も担っています。市内小中学校のコンピュータ教室はデスクトップPCで整備しており、教員機1台、学習者機40台、電子黒板を1台整備し、授業支援ソフトウェアとして『SKYMENU Pro』を整備しています。『SKYMENU Pro』はVer.5から導入しているため、先生方に慣れ親しまれているソフトウェアの一つです。当センターのメディア研修室でも『SKYMENU Pro』を利用しています。

校内ネットワークの整備は、春日部地域では、平成15年にすべての小中学校の普通教室まで校内LANの敷設が完了し、小学校では普通教室に無線LANアクセスポイントが設置されています。一方、庄和地域では全普通教室の校内ネットワーク整備が完了していません。ICTを活用するための基盤となる部分なので、今後整備を進める予定です。

市内6校と視聴覚センターにタブレット端末を導入

平成27年4月、当センターに研修用のタブレット端末を整備しました。

タブレット端末の活用は大きく「教員の活用」と「児童生徒の活用」に分けられますが、当市の小中学校は「教員の活用」を想定した整備を行いました。具体的には、平成28年8月に市内小学校1校、中学校5校の計6校に対して、60インチの大型提示装置1台とタブレット端末1台、さらに無線LANアクセスポイントの機能とタブレット端末画面を大型提示装置に無線LANを介して撮影する機能を兼ね備えた機器※、『SKYMENU Class』を1セットにして、1校に3セットずつ整備しました。

『SKYMENU Class』には、『SKYMENU Pro』のように教員機と学習者機をつなげて活用する機能だけでなく、[投影][マーキング][カメラ][比較表示]など、教員機1台だけでも活用できる機能が多く備わっているので、一斉指導の場面が多い中学校を中心に活用が進むことを期待しています。

一方、当センターに整備した21台のタブレット端末は、市民向けの講座や教職員向けの講座で活用しています。教職員向けの講座では、タブレット端末の基本的な操作方法をはじめ、授業を行う上で必要な『SKYMENU Class』の活用方法などについて研修しています。今後のタブレット端末整備、活用の推進にむけて、1人でも多くの先生方にタブレット端末の活用方法や効果を知っていただきたいと考えています。

※SKY-AP-301AN

「ICTを活用した協働学習・学び合い」研修会をスタート

教員の活用だけでなく、児童生徒がICTを活用して学び合う授業を実現したいと考えています。そこで平成27年度から「ICTを活用した協働学習・学び合い」研修会をスタートさせています。

タブレット端末を使った知識構成型ジグソー法の模擬授業この講座では、学習指導要領改訂のキーワードである「アクティブ・ラーニングの視点での授業改善」に向けて、主体的・協働的な学びを実現する手法の一つとしてタブレット端末などを取り入れた「知識構成型ジグソー法」の授業を紹介しています。研修は、模擬授業で行っており、私が先生役、先生方が児童役になり、1人1台のタブレット端末を使っています。

知識構成型ジグソー法とタブレット端末で、学び合いが充実

知識構成型ジグソー法にタブレット端末を用いることで学び合いが充実すると考えています。知識構成型ジグソー法では、学習の過程においてエキスパート活動、ジグソー活動とグループを切り替えて展開されます。

なかでも、課題別に学ぶエキスパート活動の場面でタブレット端末が有効に機能すると考えています。エキスパート活動では、1人ひとりが一つのテーマについて深く理解し、人に説明できる専門家になる必要があります。タブレット端末があれば、エキスパート活動のなかで各テーマにそった資料を用意するとき、紙だけではなく動画や静止画の資料を活用できます。特に動画は、紙の資料に比べて多くの知識を効率的に獲得でき、短時間で専門家になれます。ジグソー活動になったときに、ほかのメンバーに説明する資料にもなり、学び合いが充実します。

知識を効率的に獲得し、持ち歩き、他者に考えを伝えられる

『SKYMENU Class』には、知識構成型ジグソー法の学びの過程で必要な「知識を効率的に獲得する」「知識を持ち歩く」「他者に考えを伝える」という機能が充実しています。タブレット端末と共に用いることで、次のように授業をテンポ良く進められると考えています。

知識構成型ジグソー法における『SKYMENU Class』の活用
1

エキスパート活動(個人)で、「問い」に対して自分で調べたことを[発表ノート]にまとめる。(映像やインターネットの活用)

2

エキスパート活動(グループ)で[グループワーク]や[画面合体]機能を使って、グループで話し合った情報を自分の端末に共有して持ち帰る。

3

ジグソー活動で、エキスパート活動で持ち帰った[発表ノート]の資料を、ジグソーグループで見せながら説明する。さらには[グループワーク]や[画面合体]でデータを共有し、まとめに生かす。

4

クロストーク活動で、各ジグソーグループで話し合ったことを、[発表ノート]を使って全体に向けて発表し、意見交換。

5

「問い」について、1人ひとりが自分の言葉で書きとめる。

「ICTを活用した協働学習・学び合い」研修会では、この一連の流れを模擬授業で先生方に体験してもらい、さらにワークショップ型の研究協議会で授業分析などに取り組んでいます。

タブレット端末を活用した研究授業

当センターの「タブレット入門研修会」「タブレット活用研修会」に参加した先生方を対象に、当センターのタブレット端末21台を充電保管庫ごと貸し出しています。先日、研修を受けた小中学校の先生方がタブレット端末を活用した研究授業が行われました。

小学3年【国語】[発表ノート]で、適切な文章の順番やつなぎ言葉を考える

春日部市立立野小学校の岡安良輔教諭は、3年国語「すがたをかえる大豆」と「食べ物のひみつを教えます」の複合単元でグループ1台のタブレット端末と『SKYMENU Class』の[発表ノート]を利用しました。

岡安教諭が[発表ノート]で作成した教材岡安教諭は、児童に説明する順番や適切なつなぎ言葉を考えさせるため、「すがたをかえる大豆」の「中」の段落を「文」と「つなぎ言葉」に分け、さらに順番もバラバラにした教材を[発表ノート]で作成。[発表ノート]を学習者機に一斉配付し、児童が自由に動かしながら考えられるようにしました。何度でも繰り返して試行できるというICTのメリットが生かされていました。

画面の一覧表示で児童の考えを見取りながら机間指導また机間指導の際は、教員機でグループの進捗状況を確認しながら、適宜支援に入っていました。発表の場面では、[発表]機能で発表者の端末画面を大型テレビにさっと投影できるので、授業の進行も非常にスムーズでした。学級全体にわかりやすく情報を示したり、児童の考えを細やかに見取ったりするためにICTが有効に機能していました。

中学3年【 社会】模擬裁判の判決とその理由を[発表ノート]にまとめ、共有

春日部市立大増中学校の松澤達成教諭は、中学校3年社会「国の政治の仕組み『模擬裁判をやってみよう』」の授業で、知識構成型ジグソー法とタブレット端末を組み合わせて実践されました。

まず、1つの裁判の事案について、証言や証拠品などの4つの視点に分かれて、エキスパート活動で資料を読み取り、それぞれの視点に対する「検察側」「弁護側」の主張のポイントを整理しました。資料をもとに話し合うことで、生徒たちは知識を蓄えていきます。

その後、ジグソー活動でエキスパート活動で収集してきた情報を説明し合い、グループとしての判決とその理由を[発表ノート]にまとめました。その間、松澤教諭は教員機の[学習者機画面の一覧表示]機能で、各グループの状況を確認。さらにスクリーンにも一覧表示の画面を提示して進捗を共有しながら指導していました。

タブレット端末にグループの判決とその理由を書く。各グループの画面を一覧で表示し、並べ替えて整理

まとめでは、いくつかのグループの判決や理由をスクリーンに大きく映し出し、事案に対するさまざまな見方、考え方を共有していました。画面一覧は、生徒の思考を可視化できるので、教員が生徒の考えを取り上げながら授業の流れを考えられます。アナログでは実現できない効果的なICTの活用だと思います。

コンピュータ教室は継続し、タブレット端末は新たに整備

コンピュータ教室の端末をタブレット端末に置き換え、一度に多数のタブレット端末を整備されるケースがありますが、当市では今のところそのような整備を考えていません。確かに、タブレット端末に置き換えれば、コンピュータ教室以外でICTを活用する場面が増え、活用する教員も増えると思います。一方で、いざ児童生徒1人1台の環境で授業をしたいというときに、「タブレット端末が持ち出されていて使えない」とか「どこにいったかわからない」といった状況を生む可能性があります。

また、自治体の整備は5年、6年のスパンで行われていますから、タブレット端末本体やバッテリ寿命がこの長いスパンで行われる整備に耐えられるのかどうかの先行事例が少なく不明確です。何より、タブレット端末は画面が小さくなるため、児童生徒がコンピュータを使って情報を収集したり編集したりするような場面では使い勝手が悪くなることを懸念しています。今、インターネット上で動画を上手に発信することで収入を得ている「YouTuber」と呼ばれる人がいるように、これからの時代はプレゼンテーションの中で動画なども使いこなし、人に伝えるスキルも必要になっていきます。今後は、学校教育においても動画を編集して活用したりする活動が盛んになると思います。そのときに大きな画面やある程度のマシンパワーを備えた端末が必要になります。

このような観点からも、1人1台の環境で情報活用を行えるコンピュータ教室については継続して整備しつつ、それらとは別に、教員が教材を提示したり、児童生徒が普通教室などで意見を共有したり、発表したりできるように教育用タブレット端末の整備を進めたいと考えています。

(2016年11月取材 / 2017年2月掲載)