授業でのICT活用

熊本県八代市は、平成28年8月に市内19校にタブレット端末約690台とタブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を整備。平成31年度までに市内小中学校全43校(分校3校含)にタブレット端末の整備を順次進める計画です。整備にあわせて市内2校を「ICT推進モデル校」に研究委嘱し、タブレット端末の活用事例の開発と普及に取り組まれています。同市の教育の情報化について、八代市教育委員会 岩崎 伸一 様、加賀 真一 様、時枝 法子 様に伺いました。


市内19校にタブレット端末約690台を整備

当市は、小学校27校(分校3校含)、中学校15校、特別支援学校1校、あわせて43校を所管しています。平成28年8月のコンピュータ教室の機器更新の際、このうちの19校に対してデスクトップ端末をタブレット端末に置き換える形で約690台を整備しました。

タブレット端末は、キーボードを着脱できるセパレート型のWindows端末を採用し、授業支援ソフトウェアとしてタブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入。今後同様に、平成30年度に10校、平成31年度に12校にタブレット端末を整備し、平成31年度中に全小中学校の整備(約1,400台)を完了する予定です。

ICT活用の基盤となるネットワーク環境は、教育委員会および市内全校が超高速インターネット回線で接続されており、校内ネットワークの敷設も完了しています。各普通教室の情報コンセントに無線LANアクセスポイントを接続すれば、無線LANを利用できます。平成28年度の導入校19校には、各校2台ずつの無線LANアクセスポイントを整備しており、普通教室や体育館であっても持ち運んで設置すれば、どこでも無線LAN環境ができ、タブレット端末や『SKYMENU Class』を活用できます。

先進地域への視察や先生方の声を集め、整備を検討

当初の整備計画では、平成28年度整備は従来のコンピュータ教室整備の趣旨にそった機器の更新として、児童生徒がコンピュータに慣れ親しむことや基本的な操作リテラシーの習得、調べ学習、プレゼンテーション資料の作成が行えるICT環境を予定していました。

しかし、昨今のスマートフォンおよびタブレット端末の普及や、周辺自治体でのタブレット端末の整備・活用の進展の状況を踏まえ、「八代市総合計画」や「八代市教育振興基本計画」などに基づき、市内の約半分を占める今回の大規模整備から、タブレット端末を整備することに舵を切りました。

整備内容の検討にあたっては、学校教育課と整備を担う教育政策課で連携して進めました。当市ではこれまでタブレット端末を整備した実績がなかったことから、まずは県内の山江村、高森町など、先進地域への視察を精力的に行いました。教員がタブレット端末や電子黒板を使って教材をわかりやすく提示している場面や、児童生徒がタブレット端末を活用して主体的・協働的に学ぶ姿を見て「このような授業ができる環境を整えたい」と強く感じました。また、実際に授業で活用する先生方の声をできるだけ多く集めたいと考え、八代市教育サポートセンターの情報教育研究部会等に参加したり、学校の先生方と教育委員会を交えた情報交換の場を設定したりして、さまざまなニーズを集めました。

『SKYMENU Class』の操作性やボタンのわかりやすさを評価

ICT機器だけでなくソフトウェアも見直しました。特に、これまでコンピュータ教室で採用していた授業支援ソフトウェアはコンピュータの運用管理の機能が多く、教員・児童生徒が学習活動でタブレット端末を活用することを想定した機能が充実していませんでした。

複数の授業支援ソフトウェアを比較・検討した結果、教員・児童生徒がタブレット端末でさまざまな学習活動に取り組めることや、わかりやすい操作性を備えていることから、タブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を採用しました。

ツールバー上のボタン表記のわかりやすさや、やりたいことを少ない操作ステップで実現できるという使いやすさ。また、先生が中心となる授業支援の機能だけでなく、児童生徒が学習活動で利用したり協働学習で利用できたりする機能、そしてデータ管理の機能も含めて一つのソフトウェアの中にまとめられている点を評価しました。特に[画面合体]や[グループワーク]などの協働学習を想定した機能が充実しており、『SKYMENU Class』は、授業のなかでタブレット端末の特長を生かせるように考えられたソフトウェアだと感じました。

まだ導入されて3か月余りですが、児童生徒からは「作業が簡単にできる」「画期的なツールだと思う」といった感想が寄せられていて好評です。先生方からも「児童生徒に操作方法を指導する必要がないくらい直感的でわかりやすい」といった感想や「[マーキング]で自由に線を引ける」「[スポット強調]で画面の一部だけ強調して表示できる」といった評価を聞いています。わかりやすく教材を提示できることで、児童生徒の意欲を高めることができ、集中力を維持しながら授業を進められているようです。

今後は、[発表ノート]などの思考・表現ツールを活用して、児童生徒が自分の考えをまとめて、友だちと伝え合ったりする活動で使用したり、コンピュータ教室から持ち出して体育館でも活用するなど、さまざまな教科や場所で活用してほしいと思います。従来どおりコンピュータ教室の授業支援ソフトウェアとしても活用できるので、場所を選ばず、コミュニケーションツール、協働学習のツールとして、主体的・対話的で深い学びの実現に役立つことを期待しています。

市内にモデル校を2校設置、事例開発や情報展開を図る

当市では、八代市立八代小学校と八代市立千丁中学校の2校に平成28、29年度「ICT教育推進モデル校」の委嘱を行いました。両校は平成28、29年度の熊本県教育委員会指定「未来の学校」創造プロジェクト推進事業の指定も受けており、熊本県教育委員会からも強力なバックアップを受けて活用研究を進めています。

両校のICT環境は、今回コンピュータ教室に整備された41台のタブレット端末に加え、教育委員会が所有するタブレット端末と充電保管庫を貸し出しています。そのため1校あたり約80台と他校より端末台数は多いですが、導入している機器や『SKYMENU Class』などのソフトウェアは共通しています。ほかの地域の先進事例の中で、モデル校に実際のICT環境整備と異なる先進的なICT環境を整備した結果、モデル校で蓄積された多くの実践事例やノウハウが、そのままでは横展開できなかったという課題があったと聞いています。当市では、すべての学校の先生方に参考にしていただける環境で実践事例の蓄積を進め、市内に広く発信したいと考えています。

また、八代小学校では40台の貸し出しタブレット端末のうち19台を教員1人ひとりに配付しており、先生方の教材研究や授業準備を促し、タブレット端末活用の推進を図られています。今後どのように活用が進展していくのかを見ながら、推進校におけるさまざまな取り組みを、今後の整備や活用推進に生かしたいと考えています。

大学とも連携し、より適切なICT環境整備をめざす

今回のタブレット端末整備は、平成31年度までに完了する予定です。教育委員会では、平成32年度以降のICT環境整備についても検討を始めています。まずは今回の整備について、授業での活用状況や運用で支障になることがないかを先生方に伺い、よく使われている機器、今後使いたい機能などをヒアリングしていくことで、PDCAサイクルに基づいて改善していきたいと考えています。さらに大学研究者と連携し、より適切なICT環境整備のあり方についても研究を進めるなど、異なる角度からの意見や情報も集めて検討に役立てたいと思います。

またICT環境の整備には財源の確保が不可欠です。そのために、しっかりと導入効果を検証し、その成果を広く示していくことでより多くの方のご理解を得て、さらに充実したICT環境整備をめざしたいと考えています。

「こんな授業をしたい」という
先生方の思いに根ざしたICT環境整備を

アナログとデジタルを組み合わせた「ハイブリッド」な授業を

教育委員会としては、先生方の「こんな授業をしたい」という思いに根ざしたICT環境整備を進めたいと考えており、決してICT環境整備を先行させて考えているわけではありません。この順序を間違えて整備を進めると、何を目的にした整備なのかわからなくなります。

タブレット端末などのICTはあくまでツールであり、授業で使うものの選択肢の一つに過ぎません。ICTを授業でどのように生かすかは、教員の授業力にかかっています。ICTの知識は大事ですが、ICTを取り入れた「授業づくり」が得意な先生をめざしてほしいと思っています。これまで、私たちが授業づくりにおいて大切にしてきた板書やノートの指導、体験的な活動といったアナログの部分と、新たな選択肢であるタブレット端末や電子黒板などのデジタルの部分の両方を、うまく「いいとこ取り」して授業を設計していく、アナログとデジタルの「ハイブリッドな授業」を実現してほしいと思っています。

(2016年12月取材 / 2017年2月掲載)