授業でのICT活用

学校で取り組む 授業改善のため のタブレット端末活用

体育館をはじめ全教室で無線LANが利用可能に

森田 昌吾 高知県立高知南中学校・高等学校教諭本校は中高一貫教育校で、中学生、高校生あわせて約1,000人の生徒が在籍しています。「1,000人のオーケストラ」を合言葉に、「キャリア教育」と「国際理解教育」を教育活動の二本柱として位置付け、さまざまな学習活動に取り組んでいます。

特にキャリア教育については、平成19年度から4年間、さらに、平成25年度から3年間、文部科学省の調査研究指定を受け、生徒の主体性の育成に取り組んできました。そして、平成27年度からこれまでの研究の成果を生かし、高知県の指定を受け、「探究型学習による高知南版グローバル教育プログラム」の研究に取り組んでいます。

この研究指定に伴い、タブレット端末や無線LAN環境の整備が実施されました。平成26年の第1期整備では、タブレット端末42台と無線LANアクセスポイントが設置され、一部の教室で無線LANが使える環境が整いました。しかし、このときには『SKYMENU Class』のような授業支援ソフトウェアは整備されなかったこともあり、当初は、授業での活用方法が、ネット検索やホームページ閲覧による情報収集が中心でした。

そして、平成27年の1学期末に第2期となるタブレット端末整備が行われ、さらに42台の端末が追加されました。無線LANアクセスポイントも増設され、体育館を含め生徒が使用する全教室で無線LANが活用できる環境が整いました。このときに初めて全端末に『SKYMENU Class』が導入され、それからは、各教科の授業のさまざまな場面でタブレット端末が活用できるようになりました。

平成28年の1学期末にタブレット端末が追加整備される予定で、本校では合計100台以上のタブレット端末が稼働することになります。

2つのコンピュータ教室とタブレット端末を連動

本校には、3つのコンピュータ教室があり、120台のデスクトップPCが整備されています。すべてのコンピュータ教室に授業支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』が導入されています。

高等学校で主に利用している2つのコンピュータ教室は、1台の「SKYMENUサーバ」で統合して運用しています。生徒1人ひとりに「ユーザID」を割り当てて登録しているので、個人認証すれば2つのコンピュータ教室のどの端末からでも自分専用の[個人フォルダ](ユーザ情報の登録時に作成される専用フォルダ)を通じて、自分のデータが利用できる環境になっています。

さらに、タブレット端末で利用している『SKYMENU Class』も、このサーバで稼働しています。コンピュータ教室の『SKYMENU Pro』に登録しているユーザIDをそのまま利用できるので、[個人フォルダ]を使って、コンピュータ教室で作成・保存したファイルを、普通教室でタブレット端末から開いて、グループで話し合ったり発表したりできる環境が整っています。

2つのコンピュータ教室とタブレット端末80台を統合管理

運搬の負荷軽減にペンケースや段差補助具を自作

タブレット端末は、3台のカートに入れてコンピュータ教室で保管しています。グループウェアの予約システムで、ICTカートA(42台)・カートB(21台)・カートC(21台)のいずれかを予約し、使用するときにコンピュータ教室から運搬しています。

高等学校では、タブレット端末をはじめ必要な機材の準備や片付けをICT委員の生徒に手伝ってもらっています。中学校ではスタディヘルパーの生徒にサポートしてもらい、教員の授業準備の負担軽減を図っています。

ほかにも、デジタルペンを運搬、保管するための専用ケースを芸術科の先生に作製してもらったり、カートを押して教室や廊下の段差を越えやすくするために技術・家庭科の先生に段差補助具を作製してもらったりしています。先生方の機材準備にかかる負担を軽減するためにさまざまな工夫をしています。

使用後は、機器の管理も兼ねて、使用した教員が対象クラス、使用台数、使用目的などをタブレット使用記録簿に記録し、定期的に使用状況を把握しています。

タブレット端末の運搬に使われているICTカート。プロジェクタもセットになっている

各教科の中にICT推進担当を配置

タブレット端末をはじめ校内のICT活用を推進するため、高等学校および中学校の教頭、事務長、各教科主任などを中心とした17名からなる「学校ICT推進委員会」を設置しています。さらに「学校ICT推進教科担当者会」も設置し、国語や地歴公民、数学など、各教科の中でICT推進メンバーを指定。教科の中からICT活用を推進する体制を整えています。

導入時講習会の様子ICT活用に係る校内研修の充実も図っています。『SKYMENU Class』の導入時に
Sky株式会社のインストラクターの方に実施いただいた導入時講習会では、インストラクターの方と研修内容を十分に打ち合わせて実施しました。初めてタブレット端末を操作する教員も多かったため、基本的な操作方法から、実践的な活用方法の習得までを目指しました。

その後も、校内で任意参加の「タブレット活用ミニ講座」などを開催しました。生徒がタブレット端末上でドリル問題に取り組める[自習アプリ]の活用方法などを取り上げ、活用の幅を広げています。

「個別」「協働」「一斉」、さまざまな学習形態でタブレット端末を活用

高校3年・英語
PC教室で作成したプレゼン資料を読み出し、普通教室で発表

授業の冒頭で個別学習として[自習アプリ]を使っています。ここでは、空所補充形式のクイズ問題を作成し、個別反復学習で基礎学力の定着を図りました。問題の進捗状況は教員機に表示させた[画面一覧]で把握し、併せて[タイマー]機能の[カウントダウンタイマー]で時間の管理をしています。

[自習アプリ]の解説は、パワーポイントで作成した教材を投影しながら一斉指導で行いました。

また、英語の否定表現を使ったプレゼンに取り組みました。生徒たちは、前時までにコンピュータ教室でプレゼン資料を作成して自分の[個人フォルダ]に保存。本時では、普通教室でタブレット端末で自分の[個人フォルダ]から、データを読み出して発表させました。

タブレット端末は、このように「発表を支援するツール」として活用できると思います。生徒が自信を持ち、積極的に英語を使ったコミュニケーションを図ろうとする態度の育成に役立っています。

[自習アプリ]で学習を振り返る、生徒がタブレット端末を使って英語で発表

中学1年・国語
[画面合体]で、グループで協働して「リーフレットづくり」

国語で「学校案内リーフレット」を作る活動に取り組みました。読み手を意識して推敲し、全体構成を考える力を身に付けることがねらいです。

冒頭で[自習アプリ]を活用し、前時の学習内容を振り返った後、予め[カメラ]で記録しておいた原稿の下書きをタブレット端末上で見ながら、原稿を完成させました。その際、教員は[学習者機画面の一覧表示]で学習状況をモニタリングしたり、[カウントダウンタイマー]で学習活動時間を表示したりして授業をコントロールしました。

リーフレットの作成はグループごとで実施。[発表ノート]の[画面合体]機能を活用し、4つの端末を合体させた大きな画面を見ながら、より効果的な表現や構成について意見を交流させました。まとめでは[発表ノート]でまとめた「学校案内リーフレット」を、プロジェクタに[投影]し、[マーキング]などでポイントを強調しながら、グループごとに発表させました。タブレット端末を通して他者と推敲し合うことで、自分の考えを深めることへとつながった活動になりました。

[タイマー]を提示し、時間管理、[ 画面合体]でリーフレットの構成を話し合う

高校1年・体育(ソフトボール)
[動画比較]でバッティングフォームを見比べて、改善

体育のソフトボールの授業では、生徒のバッティングフォームをタブレット端末で動画撮影しました。撮影した動画を生徒に見せることで自らのフォームを客観的に確認させることができ、フォームの向上につながりました。

さらに[動画比較]機能で動画を並べて表示することでバッティングフォームの違いを客観的に把握できます。ソフトボール以外にも体育館でグループダンスの練習や発表したときの様子をタブレット端末で動画撮影し、後から生徒に見せることでダンスフォームの向上に活用しました。

このような動画での記録は、評価資料としても活用できますし、次年度の生徒の参考資料としても役立てたいと考えています。

[カメラ]でバッティングフォームを撮影し、自分のフォームを客観的に見る

学習におけるICT利用に対する、生徒の高い期待感

平成27年の9月から12月までの3か月間のタブレット端末活用について、中学校、高等学校の全教員、生徒を対象にアンケートを実施しました。

『SKYMENU Class』が導入されてから間もない時期でしたが、中学校では1年を中心に国語、英語、技術・家庭科でのタブレット端末が多く活用されました。高等学校では、英語での活用が最も多く、次いで理科、社会、保健体育での活用が多いことがわかりました。

しかし、最も利用している中学1年の活用状況を詳しく見てみると、クラスや教科によって活用の度合いに偏りがあることが見えてきました。

生徒の回答からは、中学校、高等学校ともに学習におけるICT利用に対する期待感が高い傾向が見られました。このような生徒の期待感に応え、授業改善や学力向上に役立てるためにも、一部の教科や教員に偏ることなく、全教科的にタブレット端末活用を推進する必要があり、どのように活用を推進するのかが今後の課題です。

授業準備の負担感を軽減し、活用促進

本校でも、まだ十分にタブレット端末を活用できているわけではありません。活用を進めるには、コンピュータ教室からタブレット端末を持ち出したり、生徒に配付したり、片付けたりすることに対する教員の負担感を軽減することが必要です。アンケートでは、多くの教員がタブレット端末活用について「活用効果はある」と回答しています。つまり「効果を理解しているものの、準備などの負担感が勝って活用が進んでいない」ということがうかがえます。タブレット端末活用にかかる教員の負担感の軽減策として、機材準備片付け、授業場面でのトラブル発生時や操作方法に関する問い合わせ対応など、人的サポート体制の充実を検討したいと思います。

今後、教員の授業デザインがますます重要になると思います。各教科の特性に応じて、どのような学習効果を期待して、授業のどの場面でどのような利用形態でICTを活用するのか。これからも教室環境として存在し続けるであろう、教科書、ノート、黒板、チョーク、プリントなどの中に、タブレット端末をはじめとするICTをどのように取り入れられるのか。これからの実践を通じて研究を深めたいと思います。

高知県立高知南中学校・高等学校
昭和62年に普通科高校として開校した同校。平成14年からは併設型の中高一貫教育校として、約1,000人の生徒が勉学や部活動に励んでいる。「たくましく生きる人間育成 -知・徳・体の調和のとれた発達と集団形成力の育成- 」を教育目標に掲げ、「キャリア教育」や「国際理解教育」などさまざまな教育活動に取り組んでいる。
http://www.kochiminami.jp/

(2016年7月掲載)