授業でのICT活用

協働的な学びとタブレット端末

止まらないタブレット端末の導入

タブレット端末の導入が止まらない。各地域で整備の様子は異なると思いますが、タブレット端末の整備は現在進行形で進んでいます。

文部科学省が公開した「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」によると、教育用コンピュータのうちタブレット端末の台数は、156,356台となっており、前年度と比較して2倍以上に台数が増加しています。

そのような中で、タブレット端末が一体どのように学びに寄与できて、アクティブ・ラーニングと関係するのか。どのような授業をイメージできるのか。多くの先生方が悩まれ、情報を集めているところだと思います。

ICTと非ICTの教材・教具をどのように選択するか

教材・教具は「ICT」と「非ICT」、「主に教師が提示で行う」と「主に児童が学習活動で使う」の4つの軸で整理できます【図1】。これまで整備されてきた電子黒板や実物投影機などの機器は、児童生徒の発表場面にも使えますが、主に教師が提示用に活用するものでした。特に普通教室で使う機器に関してはこの傾向が強いと思います。

【図1】タブレット端末の位置づけ

しかし、タブレット端末は、教師の教材提示だけでなく児童が学習活動にも使える機器であり、両方に属する位置付けにあります。ある自治体では先生用に1人1台のタブレット端末が整備され、またある自治体では児童生徒用として整備され……。導入されたタブレット端末を、一体どのように授業で使えば良いのだろうかと、悩まれている先生は多いと思います。

例えば、ICTと非ICTの教材・教具をどのように選択すればよいのか。

私は「餅は餅屋」だと考えています。つまり、紙が得意なところは紙でやればいいし、デジタルがキラリと光るところは、うまくデジタルでやればいい。これに尽きると思います。それを具体的な授業場面に落とし込んで考えていくことが大事で、それが授業研究だと思います。

ICTは、学びを「変える」ものではなく学びを「拡張」するもの

タブレット端末が「One of them」であることを意識する

いずれにしても、教師は状況に応じて適切な教材・教具を見極めて選択し、時には組み合わせたりすることが必要です。その際、タブレット端末が「One of them」であることを意識することが重要です【図2】。

【図2】One of themのタブレットを意識しよう

タブレット端末を取り巻く電子黒板やデジタルテレビ、実物投影機、デジタル教科書などの「ICT」。そして紙の教科書、資料集、板書などの「非ICT」。これらをどのように使い分けるのか。さらには、ワークシートや紙のノート、実物、実技・実演、実験など、今後も授業で欠かせない大事な要素の中にタブレット端末をどのように切り込ませるのか。これらを考えるとともに、「他の教材・教具のほうがもっと良いのではないか」と比較、選択したり、「他の教材・教具との最適な組み合わせはないか」と考えてみたりすることが大切です。

私は、ICTは学びを「変える」ものではなく、「拡張」するものと考えています。子どもの学びを広げることに寄与するタブレット端末の活用場面とはどのような場面なのか。ここに一歩踏み込んで考えることが、さらなる授業研究に結びつき、やがては教師の自己成長、教師のICT活用指導力の向上につながります。

頭の中にある思いや考えを視覚的に表す「思考の可視化」に役立つ

タブレット端末は、思考力に着目した授業改善につながる

タブレット端末は、頭の中にある思いや考えを視覚的に表す「思考の可視化」に役立ちます。

例えば、授業支援ソフトと組み合わせることで、子どもたちの思考を手元でリアルタイムに把握する、必要に応じて電子黒板にも転送して全体で共有する、場合によってはA君とB子さんの画面を比較して考えることも可能になります。タブレット端末は思考が集まる拠点、「プラットフォーム」となり、「思考力」に着目した授業改善につながる可能性があります。

さらに授業支援ソフト『SKYMENU Class』には、個人が自分の考えをまとめるツール「マッピング機能」が搭載されています【図3】。マッピングとは語句を線で結んで、蜘蛛の巣状に張り巡らせていくことで、知識や考えを拡充したり、整理したりできる手法のことで、これまで気がつかなかった関係性を発見したり、他者の指摘を受けて考えを見つめ直したりできるメリットがあります。もちろん紙のワークシートを配布して、そこに書き込みながらアナログでやることもよいのだけれど、「マッピング機能」を活用すれば「動かす」「大きくする」「転送する」「保存する」などの動的なツールであるタブレット端末の特徴をフルに発揮し、タブレット端末上で何度もカードを動かしたり、つなぎ方を変えたりして自分の考えの整理、分類や拡充に役立てられます。

近年、国語の教科書の中でもマッピングは取り上げられており、教科書によっては6年間で11の単元で活用場面が出てきます。アナログであれ、デジタルであれ、今後このようなツールを使って自分の考えを整理できることが必要になると思います。

【図3】マッピング機能

「半オープン」を生かした授業

「タブレット端末上に書き込むこと」と「紙の教科書やノート書き込むこと」には、決定的な違いがあります。それは、タブレット端末が「半オープンである」ということです。タブレット端末に書いた内容は、授業支援ソフトを使えば、「じゃあ、○○さんが書いているものを見てみようか?」と子どもの画面を電子黒板やプロジェクタに簡単に提示できます。つまり、タブレット端末は情報共有が前提で使われるということです。

これが紙のノートであれば、タブレット端末に書き込んだものほどオープンなものとして子どもに認識されていないので、他者に見せることにもっと抵抗感があるのではないかと思います。

『SKYMENU Class』には、半オープンであることを生かし、複数の子どもの画面を合体して、資料を共有したり、協働で問題解決を図ったりできる「画面合体機能」が搭載されています【図4】。タブレット端末の特性をうまく生かして、協働の学びを実現してほしいと考えています。

【図4】画面合体機能
頭主体的・協働的な学びの実現には、「からみ」と「ゆらぎ」が起こるような授業デザインが必要

「からみ」と「ゆらぎ」が生まれると、思考が活性化する

近頃、アクティブ・ラーニングや協働学習がキーワードになっています。しかし、グループ活動や話し合いを授業に取り入れれば協働学習、というわけではありません。主体的・協働的な学びの実現には、「からみ」と「ゆらぎ」が起こるような授業デザインが必要です【図5】。

【図5】授業における「からみ」と「ゆらぎ」

「からみ」とは、誰かの話をいったん受け止めたうえで質問を返す、といった「会話のキャッチボール」が成立しているコミュニケーション場面を言います。子どもがからみ合うことで、「なぜ自分の意見や説明をわかってもらえないのか」と自分と他者との間に認識や考えのズレがあることに気がつきます。すると、子どもが立ち止まって考え直すようになる。これを子どもの思考の「ゆらぎ」と言っています。

そこに、子どもの思考を可視化するツールとしてのタブレット端末の活用が考えられるわけです。もちろん、「教師の出」や「学習内容や方法」などの検討も重要な要素です。

3つの学びの過程の実現とICT活用

教育課程企画特別部会「論点整理」では、アクティブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善として、「習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置きつつ、深い学びの過程が実現できているかどうか」「他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているかどうか」「子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか」という3つの過程の実現が示されています。

ICTには、「何度も試行しながら編集、加工といったカスタマイズを容易にできる」「時間や空間の制約を超えて動画や音声などのデータを活用できる」「距離に関わりなく相互に発信・受信のやりとりができ、双方向がある」という特性・強みがあり、3つの学びの過程の実現と関連があります。これらの強みを生かした授業をより具体的に考えていくことが、今後ますます重要になると思います。

(タブレット端末活用セミナー2016東京会場(2016.4.23)講演より)