授業でのICT活用

主体的な学びをめざし、タブレットを導入 PC教室・普通教室で活用が広がる

鳥取市立中ノ郷中学校は、鳥取市教育委員会の未来のとっとり教育創造事業「子どもの主体的な学びを創るICT活用事業」の研究指定校です。コンピュータ教室に整備された35台のタブレット端末と授業支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』、『SKYMENU Class』を活用して、ICT活用授業の研究に取り組まれています。同校のICT活用の推進を担当される井上 匡央 教諭にお話を伺いました。(2015年7月取材)

PC教室のコンピュータをタブレット端末で整備

本校は、平成26年度から2年計画で進められている、鳥取市教育委員会の未来のとっとり教育創造事業「子どもの主体的な学びを創るICT活用事業」の研究指定を受けており、タブレット端末をはじめとするICTを活用し、生徒が主体的に学ぶ授業をめざして授業研究に取り組んでいます。

研究に向けて、平成26年4月に本校のコンピュータ教室の学習者機35台がWindowsのタブレット端末で整備されました。タブレット端末はクレードルを介して、モニターとキーボード、マウス、有線LANにつながれており、従来のデスクトップPCのように生徒たちが集中して作業に取り組めるようになっています。またコンピュータ教室の授業支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』も整備され、教員機からさまざまに学習者機をコントロールできます。

さらに、教員が教材作成や教材提示に活用できるように、職員室にも3台のタブレット端末が整備されています。ノートPCのようにも扱えるコンバーチブルタイプの端末です。

これらのタブレット端末を教員、生徒が日常的に活用できるよう、全教室に無線アクセスポイントが1台ずつ設置され、無線LAN環境が整っています。

『SKYMENU Class』が先生方の活用を後押し

整備当初は、普通教室で利用できる授業支援ソフトなどがなく、活用場面が限られていました。平成26年7月のタブレット端末対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』の追加整備をきっかけに活用が広がりました。無線LANを介してタブレット端末の画面をプロジェクタで拡大提示できることに加え、コンピュータ教室のように教員機から全学習者機の様子を把握したり、コントロールしたりできることが先生方の活用を後押ししてくれました。

現在では、3台の教員用のタブレット端末は職員室から頻繁に持ち出されており、デジタル教科書やMicrosoft PowerPointで作成した教材、フラッシュ型教材などをプロジェクタで拡大提示したり、生徒のノートやプリントを[カメラ]機能で撮影して紹介したりと、さまざまに活用されています。

教員と生徒のユーザを登録、個人認証環境を構築

本校では、SKYMENUの[ユーザ情報管理]機能を利用して、全教員、生徒のユーザ情報を登録し、個人認証の環境を構築しています。ユーザ情報の登録は、年度初めに技術科の先生にしてもらっています。

ユーザ情報管理のメリットは2つあります。

1つは、生徒たちに自分のユーザID、パスワードを自己管理させられることです。初期登録時はパスワードがランダムに付与されるので、1学年の最初の授業で生徒に自分自身で決めたパスワードに変更させ、以降は自己管理させています。時々パスワードを忘れてしまう生徒もいますが、ユーザID、パスワード管理の大切さに気づかせる良い指導の機会になっています。

もう1つは、ユーザ情報の登録時にサーバ上に自動生成されるユーザ専用のフォルダ「個人フォルダ」です。学習者機は「復元」ソフトで起動するたびに端末上のデータが削除されるので、生徒1人ひとりのデータを確実に保存できる「個人フォルダ」は重宝しています。

生徒だけでなく教員も「個人フォルダ」を活用しています。例えば、予め職員室で作成しておいた教材ファイルを自分の「個人フォルダ」に保存しておけば、コンピュータ教室の教員機から自分の「個人フォルダ」にアクセスして教材を呼び出し、提示するといったことが簡単にできます。「個人フォルダ」の運用で、データ管理や共有は便利になりました。

タブレット端末は
授業改善のきっかけになるツール

理科標本から違いを見つけ、タブレットで撮影して発表

『SKYMENU Pro』『SKYMENU Class』の両方に搭載されている「デジタルワークシート」は、キーボードで文字入力したり、マーキングで書き込んだりして簡単に考えを表現させられるので、生徒たちが考えをまとめて発表するツールとして活用されています。

教員の間でも活用が広がっています。これまでにMicrosoft PowerPointなどで作成した教材ファイルも読み込める点や、教員機から学習者機にシート1枚単位で配布できる点が評価されています。

理科の授業では、草食動物と肉食動物の頭蓋骨の標本を各班に1個ずつ用意して、その違いを[カメラ]機能で撮影し、「デジタルワークシート」にまとめていました。撮影した写真をすぐにシートに貼り付けられるので、生徒たちは「ここを撮影して」とか「これを書き込もう」など協働して学習を進めていました。タブレット端末と「デジタルワークシート」を活用することで、話し合う材料がどんどん生まれていました。

協働学習では、生徒たちが協力して同一のシートを編集できる[グループワーク]機能も有用です。個からペア、グループでの活動へと学習形態に応じて柔軟に協働作業を行えるので、スムーズに授業を展開できます。「デジタルワークシート」がタブレット端末同士を連携させ、生徒たちの協働的な学びを支援してくれています。言語活動の充実や生徒相互の学び合いを通じて、楽しくよくわかる授業を実現したいと考えています。

授業に広がりと深まりが生まれる

教員機で全学習者機画面を確認できるので、生徒たちの多様な考えを把握できます。例えば、「Aさんの発表の次はCさんに発表してもらえば良いつながりができそうだ」と授業の展開を考えることに役立っています。

また、生徒の画面をタップするだけでプロジェクタに投影できるので、普段、積極的に発表しないような生徒でも発表させやすくなりました。積極的で意欲的な生徒の意見だけで授業が進むのではなく、おとなしいけれどじっくり考えて、自分なりに頑張っている生徒の考えを拾ってあげられることで、授業に広がりと深まりが生まれると感じています。

困っている生徒やつまずいている生徒も見つけられます。机間指導だけではつかみきれない生徒の考えや進捗状況を把握して、指導に生かせるのは、『SKYMENU Class』のメリットだと思います。

PC教室と普通教室、
授業の目的に応じて使い分ける

数学図形の性質を発見し「面白さ」を実感

数学では、図形や軌跡の単元がタブレット端末の使いどころの一つだと思います。これまで軌跡の学習では、「頂点Aを動かすと頂点Bは……」と何度も図を板書して説明していました。板書に時間が割かれ、授業の効率が悪かったのですが、生徒にタブレット端末とデジタル教材を使わせることで、例えば頂点を1つ動かせば、ほかの頂点がどのように反応して引っ張られるのかを、自分自身で確かめられます。「自ら図形の性質を発見する面白さや喜び」を、これまで以上に伝えられると思います。

タブレット端末は、教員がこれまで手間の多さなどから断念していたことを、省力化しながら実現させてくれます。授業改善のきっかけになるツールだと考えています。

PC教室と普通教室、それぞれの特徴を踏まえて

これまでの本校での実践経験から、技術科の授業をはじめ、生徒1人ひとりがタブレット端末で、個々に活動するような授業では、有線LANで高速かつ安定した通信が行えるコンピュータ教室の活用が望ましいと考えています。

一方で、有線LANと比較して、低速で不安定な無線LAN環境である普通教室では、教員がタブレット端末で教材を拡大提示したり、コンピュータ教室から数台のタブレット端末を持ち出して、グループに1~2台を配布して話し合う場面などで活用するとうまくいくと感じています。そもそも普通教室で生徒1人1台の端末活用をしようとすると、授業準備に大変な労力がかかります。

コンピュータ教室と普通教室、それぞれで学習環境は異なります。特徴を踏まえ、授業の目的に応じて使い分けたいと思います。

協働学習は、ICT活用が前提ではない

昨今「アクティブ・ラーニング」などが話題になり、教え方、学ばせ方が注目されていますが、本校でも、生徒の主体的、協働的な学びを通じて、学力向上や21世紀型スキルといわれる力を育みたいと考えています。

協働学習については、生徒同士が支え合ったり、教え合ったりできる人間関係が土台にあります。その上で、生徒たちが知恵を出し合い、協働しなければ解決できないような課題を教員が与えることがポイントだと考えています。ICT活用が前提ではありません。あくまで、調べたり、まとめたり、表現する際に、「優れた道具」としてタブレット端末などを授業に取り入れる、そのような考え方を全教員で共有しています。

しかしながら、私たち教員は現行の学習指導要領に記されている学習内容を生徒たちに教えなければなりません。

授業に協働的な学びを取り入れながら、学力向上をめざし、かつ授業時間数を確保して教えきることは容易なことではありません。指導計画の中に協働的な学びをどのように位置付けていくのか、より考えて取り組まなければならないと思います。

教員のICT活用に対する意識が高まる

約1年半の研究指定校の取り組みを通じて、先生方のICT活用に対する意識は高まってきています。職員室の3台の教員用タブレット端末やプロジェクタは、高い頻度で活用されていますし、「使いたいけど、(ほかの人が使っていて)使えない」と先生方から相談を受けることが多くなりました。

さらなるICTの活用促進に向けて、授業準備の手間の軽減などさまざまな課題が見えてきています。生徒の主体的な学びの実現をめざし、これからも多くのICT活用授業を重ね、授業改善や教科の特性に応じた教材研究、教員の指導力の向上を図っていきたいと思います。

(2015年10月掲載)