授業でのICT活用

少人数・複式指導で児童を 伸ばすタブレット端末の活用

熊本県五木村立五木東小学校熊本県五木村は、熊本県南部に位置し、周囲を九州山地に囲まれた山間部の村です。民謡「五木の子守唄」で知られています。

五木村立五木東小学校は、平成4年から平成23年にかけて周辺にある4つの小学校が統合され、現在、五木村内で唯一かつ「へき地1級」の小規模校です。39名の児童が通学しており、1年と2年は単学級、3・4年と5・6年は複式学級で、全4学級で教育活動を展開されています。

平成25年度にタブレット端末を40台導入され、児童1人1台の環境の中、少人数・複式指導で活用を進められています。同校の取り組みや、タブレット端末活用のポイントについて、生田 文明 校長と鎌田 嗣 教諭に伺いました。

生田校長、鎌田教頭

タブレット端末40台、児童1人1台の環境

本校には、電子黒板5台や大型デジタルテレビ7台、さらにMicrosoft Windows OSのタブレット端末が40台整備されています。全校児童数が39人であるため、児童1人1台の環境が実現しています。校舎内すべてに無線LANが整備されており、普通教室や特別教室だけでなく体育館でも無線LANに接続可能であるため、どこでもタブレット端末を利用できる環境が整っています。

平成26年には、熊本県の「ICTを活用した『未来の学校』創造プロジェクト推進事業」研究推進校に指定され、タブレット端末などICT機器を活用した指導の研究に注力しています。

少人数・複式学級を生かした新たな指導方法を創る

五木村は人口の流出による過疎化・高齢化・少子化などの課題を抱えています。五木村で唯一の小学校である本校は、この村の将来の在り方を考えていく上で、「人材」の育成という非常に重要な役割を担っています。

「ふるさとを愛し 豊かな心と確かな学力をもった たくましい五木っ子の育成」を教育目標に掲げ、ふるさと五木を愛する心、五木で学んだことを誇りにする心、そして未来を拓く生きる力の育成をめざしています。

今年度、校内研究の主題を「主体的に生き生きと学び、互いに高め合う児童の育成」に設定しました(図1)。マイナス面にとらえられがちな少人数・複式学級の指導ですが、逆手にとって、少人数・複式学級だからこその「よさ」を生かした独自の学習活動を創造することで、本校の教育目標を実現したいと考えています。

主体的に生き生きと学び、互いに高め合う児童の育成

具体的なアプローチとしては、「学習の見通しをもたせる指導」と「言語活動の充実」を2本の柱とし、その中でタブレット端末などのICT機器の効果的な活用を図っています。

「間接指導」をいかに充実させるか

複式学級の授業では、教師が主になって授業を進める「直接指導」と児童が主になって授業を進める「間接指導」を交互に行います。

複式学級の授業を充実させるためには、間接指導が鍵となります。児童の学習に対する主体性を高めることで、間接指導の充実につながります。

そこで本校では、児童の主体性を高めるために、研究の一つ目の柱である「学習の見通しをもたせる指導」に力を入れています。本時のめあてと学習の内容・方法を必ず授業の冒頭で確認し、授業を行うことにしています。学習の流れを「課題把握・自力解決・協働解決・まとめ」とパターン化して授業を行うことで、児童は見通しをもって学習を進めることができるようになりました。

また、児童の主体性を高めるもう一つの手立てとして、「ガイド学習」(児童が【学習ガイド】と【フォロアー】に分かれ、協力しながら行う学習)を「間接指導」に取り入れています。

ペア学習で自分の考えを伝え、深め合うさらに、児童の興味関心を高め、考えを広めたり共有したりする協働的な学習を手助けするツールとして、ICT機器を積極的に活用しています。現在、前述した学習過程のそれぞれの場面で、教科に応じた有効な活用法を研究しているところです。

この他、特別支援教育支援員と連携した個に応じた学習支援や、話す力・聞く力・書く力を高め、思考力・判断力・表現力を伸ばす全校一斉の「ペアトーク」「テーマ作文」などにも力を入れ、間接指導がより主体的に実施できるように取り組んでいます。

言語活動の充実にICTを活用

2つ目の柱「言語活動の充実」には、まず自分の考えをもち、それをわかりやすく相手に伝えることが必要です。十分な自力解決の場を設定し、タブレット端末なども用いて、自分の考えをまとめさせています。そして、児童が自らの考えをほかの児童に伝え、お互いにじっくり語り合う場面を取り入れるとともに、相手の話を正確に聞いたり、感想や考えをもちながら聞いたりする力や、互いの考えを高め合うための話し方の指導にも力をいれています。

タブレット端末などのICT機器は、児童が自分の考えをまとめたり、相手に説明したりするような場面で非常に有効です。互いの考えを高め合い、言語活動を充実させるツールとして、日々有効な活用法を模索しています。

実践 5年算数「面積」 三角形の求積方法を考え、児童同士で伝え合い、深め合う

デジタルワークシートで求積方法を考える

5・6学年の学級では、5年生側にデジタルテレビ、6年生側に電子黒板を設置しています。5年「算数」と6年「社会」の複式指導で、5年算数「面積」の学習にタブレット端末と授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を活用しました。

5年「算数」の導入では、これまでに学習してきた正方形や長方形、直角三角形の面積を求める考え方を確認させました。また、それらを基に一般的な三角形の面積の求め方を考えるように課題を与えました。

教材は、予め「デジタルワークシート」で作成しておきました。「学習ガイド」の児童が学習の中心となって司会進行を行い、まず一人一人が、「デジタルワークシート」で三角形の面積の求め方を考えます(自力解決)。各自で考えた三角形の面積の求め方を、児童同士の「ペア学習」で伝え合い、考えを深め、さらに全体に発表します。全体発表を行うことで、多様な考え方も共有できます(協働解決)。間接指導中は、[画面一覧表示]機能で全員の画面をデジタルテレビに映し出しておき、教員または児童同士で進捗状況を確認できるようにしました。

「画面一覧表示」を5年生の状況把握に活用

5年生全員の画面をデジタルテレビに一覧表示6年「社会」の授業と交互に指導に入っていましたが、5年生側のデジタルテレビに5年生の学習者機画面が一覧表示されているので、6年生の直接指導中でも、5年生の進捗状況がわかります。また、児童一人一人がそれぞれどのような考え方をしているのか把握できているので、5年生で直接指導を行う際に、一人一人に適切な言葉かけができました。

一人一人自分の考えを発表する場面では、「学習ガイド」の児童が『SKYMENU Class』を操作して、発表者のタブレット端末画面をデジタルテレビに映し出させています。発表者の児童もマーキングなどしながら、自分の考えを上手に表現することができました。以前は、ホワイトボードで問題を解かせ、交流や発表をさせていましたが、その時は直接指導をしながら間接指導側の状況をつぶさに把握することは困難でした。『SKYMENU Class』を活用することで、児童一人一人の考えに気づき、よりきめ細やかな指導が行えるようになりました。

白紙のシートに、何度でも、何個でも考えを書き込める

算数、特に「図形」の指導において「デジタルワークシート」に大きな可能性を感じています。「デジタルワークシート」は、何枚も白紙のシートを追加できるので、思いついた解き方を何通りでも表現できます。多彩な色使いで表現でき、やり直しも容易です。ホワイトボードにはないメリットです。「デジタルワークシート」を学習活動に取り入れてからは、児童の思考が深まり、表現も多様化してきていると感じています。何より積極的・探究的に問いと向き合う姿勢が見られるようになりました。

ほかにも、調べた情報をシートに貼り付け、ストックするといった使い方もしています。シート上に撮影した動画を貼り付けられるので、「デジタルパンフレットづくり」などにも挑戦しています。

「手書き入力」で、簡単にテキスト入力が行える手書きの文字を認識して入力する[手書き入力]機能もとても便利です。ローマ字を学習していない低学年の児童でも、タブレット端末を使って表現したり、まとめたりできています。

特に、低学年では、ソフトウェアキーボードの押し間違いで作成中のデータを誤って消してしまうことが頻発していましたが、[手書き入力]機能を利用することで解消できました。

文書作成の機能がさらに充実することで、高学年での活用の幅が広がるのではと感じています。今後の『SKYMENU Class』のバージョンアップに期待しています。

タブレット端末だけでは多くを望めない。授業支援ソフトで個人の端末を繋ぐことで、学びを深めることができる。

思考力・判断力・表現力の育成や協働学習のツールとして

タブレット端末の活用は児童の学習支援ツールの一つとして日常化してきています。

しかし、タブレット端末の導入当初は、授業支援ソフトウェアが導入されておらず、インターネットの閲覧やカメラ撮影、動画の視聴など、児童の個別利用に偏っていました。タブレット端末だけでは多くの教育効果は望めませんでした。

協働学習、また思考力・判断力・表現力の育成や言語活動の充実にタブレット端末を生かす。そのためには端末同士、つまり「教員と児童」「児童と児童」を繋ぐことが必要です。

昨年度『SKYMENU Class』を導入してからは、「デジタルワークシート」で、個で考えをまとめ、友だちと伝え合い、深める。さらに[画面一覧表示]機能や[発表]機能で全体に示して共有する。これらの一連の流れを教員だけでなく、「学習ガイド」の児童もスムーズに行え、日々の指導に欠かせないツールとして利用が進んでいます。

また、「個人フォルダ」も日常的に活用しています。児童一人一人のファイルはサーバ上の「個人フォルダ」に自動的に保存されるので、データの管理が容易です。児童は、「デジタルワークシート」や[カメラ]機能で撮影した写真など、自分の学びの履歴を「個人フォルダ」に蓄積。教員は、自作した教材ファイルを学級の児童全員がアクセス可能な「グループフォルダ」に保存することで、教材ファイルの配付などがスムーズ・スピーディーに行えます。

このほか、校内のタブレット端末などの活用状況を把握できる「校内ネットワーク運用支援」を使って、職員室からも各教室の活用状況や学習内容などを把握しています。

持ち帰り学習や交流学習へさらに活用を広げる

協働学習で、児童の思考力・判断力・表現力の育成につながるタブレット端末の活用を追求していきたいと考えています。

さらに、児童に課題を与え、自宅にタブレット端末を持ち帰らせて学習させ、それをもとに学校で話し合う「反転授業」のような活用。他地域の児童と交流する「交流学習」での活用も進めたいと考えています。距離と時間を超えられるICTの特長を十二分に生かし、教育活動をさらに充実させたいと思います。

本校は、平成27年10月15日~16日開催予定の第64回全国へき地教育研究大会熊本大会の分科会会場に指定されています。是非、多くの先生方にお越しいたただき、ICTを活用した五木東小学校の授業をぜひご覧いただきたいと思います。

(2015年2月掲載)